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くちなし
第3章 闇
「それじゃあ、僕は隣の部屋に居るから何かあったら電話しておくれよ。」
部屋を出て行こうとする兄の手を掴む。
「お兄様…。酔いがさめるまで少しそばにいて…。」
驚く顔をする兄。
「雅…。そうだね。ごめんよ。少しいるから安心して。」
「んん…ごめんなさい…困らせて…。」

雅は、僕を信用している。しかし、僕だけ落ち着いていられる自信がない。酔った女性はしっとりとしていて、すごく魅力的に見える。潤んだ瞳で懇願されるとほおっておけない。いや…。もしかしたら、僕自身が雅と二人っきりでいたいからかもしれない。

「暑くないかい?」
「ん…大丈夫…。お兄様……。あの女性の講師とは、お付き合いしているの?すごく、親しい感じだったから…。」
何を言い出すかと思った。
「あはは!付き合ってなんかいないよ。僕は彼女は作らないんだよ。」
どうして、そんな事を聞いてくる?
「そうだったの…私勘違いしてたみたい。」
僕の方が勘違いしてしまいそうだ。
「ん?僕はずっと君の兄だよ。」
「うん…。もう誰も居なくなってほしくないの…。」
黒田のことか…。
「雅…。」
そっと頬に触れる。触れた手に重ねられる。
「お兄様の手…冷たくて気持ちがいい。」
「クスクス…そうかい?」
「お兄様もいい香りがする。私と一緒なのかしら?」
「うん。そうだね。僕ら兄妹だから…ね。…っ!」
雅が僕の頬に触れる。
「お兄様…綺麗な肌。触れたくて…。」 
雅の唇に親指が触れる。直ぐにキスができる距離だ。
「雅。もし…僕らが兄妹でなかったら、どうする?」
「お兄様じゃなかったら…?私も…他の女性みたいに、お兄様に近づいてるかもしれないわね。クスクス」

花に集まる蝶のように引き寄せられる。

「そう…。兄妹でなかったら、僕に抱かれていたかもしれないねぇ?クスクス」
笑う兄の横顔は少し悲しげに見える。
「お兄様…?」
「僕がここでキスしたら雅は驚くかな?」
雅に本当のことを言ってしまいたい。

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