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くちなし
第4章 迷
「と、とりあえず!私もう帰るから、安静にしなくちゃ、ダメだからね!!」
私は、昴を制止し腕をすり抜ける。
「まって!雅ちゃん!…今日は、ありがとう。
 今度お礼させてね。気を付けて帰って?」
優しく微笑む昴はいつもの強引な昴とは違った。
病院を後にし屋敷へ戻る帰り道、昴に噛まれた耳、口づけされた唇が熱いことに気づく。
少しでも、気持ちいいと感じてしまったのだ。
こんなに、反応する身体になってしまったとつくづく思う。

「ただいま戻りました。」

使用人が頭を下げ出迎える。
「お帰りなさいませ、お嬢様。夕飯の支度ができております。お召し上がりになりますか?」
「ええ。このまま行くわ。」

広いダイニングテーブルに2人分の食事。

「お父様とお母様は、まだ帰ってきていないの?」
「ええ。お二人とも貿易関係の接待に行かれております。お帰りは遅くなるようですよ。」
「ふーん。わかったわ。お兄様は?」
「今、いらっしゃると思われます。」

ーがちゃー

「おや?雅。今戻ったのかい?
 ささ。早く食事をとろう。」

兄の顔を見ると心臓がドキンと音をたてて跳ね上がる。
最近の私は、少しおかしい。
兄とも身体を重ね、今こうして普通に食事をしている。
屋敷全員を騙している気分だ。それでもいいと私は思ったはずなのに…。

「ご馳走様でした。」

席を立つと、兄と視線が絡まる。

「雅。前に言っていた、本を取りに僕の部屋へおいで。」
「ありがとう。後で伺うわ。」

少し期待している私と高鳴る鼓動。
バレてしまわないように、ダイニングを離れた。

兄の部屋へ向かう廊下。どれほどぶりだろうか。
兄の部屋へ向かうのは、小さい時以来だった。

ーコンコンー

「どうぞ。」

ーがちゃー

「お兄様…。」
「まずは、中に入って。……クスクス
 雅に会う為に嘘をついてしまったよ。」
「そうよね?本なんて、聞いてなかったもの。」

ーぎゅー

兄の香りがふわりと香る。
「今朝もこうして、雅と抱き合ったというのに…もう僕は雅に触れたくて、どうしようもなくなる…。
 ………あれから、誰かと会っていたようだね?
 違うにおいがするよ?んー。紀村家の次男の香り…かな?」
「お、お兄様。これは…。たまたま会ってしまって…。
 体調が悪い彼を病院へ送ったの…。」
わたしを抱きしめる腕に力がこもる。
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