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くちなし
第5章 交
「はぁ…雅ちゃん…。取り乱しちゃったよ…。僕のこと…好きになったりしない?」
「え…?」

昴が言う意味は、なんだろう。
好きになるなと言っているのか、好きになれと言っているのか、わからなかった。

「女の子って、したら好きになるでしょ?
 僕は、そういうのは慣れてるんだけど…。今まではあまり好意を示されても…正直嬉しくなかったかな…。
 けど、雅ちゃんだったら嬉しいかな…?」
「私に全て打ち明けてくれるの?」
「…それは…。どうかな…?」

昴の表情が曇る。

「雅ちゃんが、僕と付き合ってくれるならいいよ。」

昴は真っ直ぐ私を見る。
思わずその圧力に目をそらしてしまう。

「ねぇ。目そらさないで。僕の目ちゃんと見て…?」

キスができるくらいの唇の距離を保つ。
甘い香りのせいで、昴のことしか考えられない。

「昴くんは…悲しい目をするの…。その理由は…過去に何かあったんだよね?私に話しても楽にならないかな…?」

「……………。」

沈黙が流れる。

「はは…っ。僕は、ずっと永遠に楽になっちゃいけない。解放なんてされないんだよ。例え雅ちゃんでも無理だよ。僕は…生きていちゃいけないんだよ。」

瞳に光がない。

「昴くん…。いったい…何が…。」

ードン!ー

「雅ちゃんはさ。偽善者ぶってるの?僕を可哀想な人だって思ってるの?」

掴まれている肩が痛い。
昴くんの心の痛みはこの肩の痛みの倍は痛いのかな?
ジリジリと迫る昴に恐怖は感じない。

「昴くん。私には何もできないかもしれない。
 私には昴くんの心の痛みはわからない。偽善者かもしれない。少しでも力になれたらって思うことはいけないかな…?可哀想って思ってないわけじゃない。このまま何かを背負って生きてくの?」
「雅ちゃんには、わからない!!」

ーパシンっ!ー

「…って。」
「昴くんのバカ!意気地なし!弱虫!女々しいのよ!」

昴を押しのけて、洋服を着て部屋を出ようとする。

ーぎゅっー

「…また雅ちゃんに打たれたな…。…ごめんね。
 人を信じらんないだけなんだ。信用して裏切られるのが怖いから…。」
後ろから抱きしめられる。
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