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くちなし
第6章 偶
「ダメ…!そんな昴くん見るのは苦しい。」

ーちゅっー

「雅ちゃん…もう少し嫌な女にならないと…ダメだよ…。」
眉をひそめ私へそう言う。

「そんなの…できない…。」

「……本当に好きになるよ?…ふふ。
 あの好きな人のことも、忘れちゃうくらい本気で惚れさせちゃうよ…?」

胸がドキンとした。

「……それは…ないよ。あの人のことは忘れない…。」

ードン!ー

「忘れさせられるよ?…僕は…本気なんだけどな?」

私の背中が床と接し、昴が押さえ込んでいる。
ギラギラとした目で私を見つめる。

「ちょ…昴くんが、何かを忘れられないのと一緒だよ。」

昴がハッとする。

「雅ちゃん…。…っ…。」

優しく抱きしめ、なだめるようにする。

「大丈夫だよ。昴くん。」

今昴は何を考えているだろう。
私は黒田を考えていた。
今彼は何をしているんだろう。
日本にいるのか居ないのかもわからない。

「昴くん…。それそろ、準備してアルバイトに行こっか!」

「ん…。なんだか、雅ちゃんに助けてもらってばかりだな…男として情けないや…。ふふ。それじゃあ、準備して11時に集合ね。」

昴は、そう言うと部屋を出て行った。

誰かと身体を重ねるたび、黒田を思い出してしまう。
もう、逢えることはないのに。

「黒田…。あいたい…。」
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