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くちなし
第6章 偶
明日のアルバイトでまた会えるのではないかと期待してしまう。

「雅ちゃーん?どうしたのー?疲れちゃった?」

「あ!うんー。少しね!やっぱり、仕事って大変だね!」

「あのさ。あの社長のこと気にしてるでしょ??」

ードクン!ー

昴に不意をつかれる。

「え…いや…。」

「前の使用人に似てたよね?…だから、雅ちゃん気になってるんじゃないかと…思ってね。」

「昴くん…。黒田だったら…けど名前が違ったの…。
 花巻さんって言うらしくて…。」

「…僕が、雅ちゃんにお礼する番かな!よーし!明日は、朝からバイトだから、頑張っちゃおう!」

私は、観光する気分ではなく真っ直ぐ、宿泊先へ帰った。

帰るなり、お風呂を済ませ部屋で休んでいた。

ーこんこんー

「はい?」

ーガチャー

「雅ちゃんっ!」

「あ。昴くん。帰ってたんだ。おかえりー!」

「ただいま!あのね。さっき話した社長のことなんだけど…少し聞いてくれないかな?」

昴によると、大手企業を経営する若手社長。先代の意志を受け継ぎ若いながらも、社員から慕われ、経営を回している。
経歴や社長の個人情報は、謎に包まれており、様々な噂がある。
海外で経営学を学び、そのノウハウを活かしつつ、日本人に合ったように変えた方針は、日本の最先端をいく企業とも言われている。

「なーんて、会社のことはわかったけど、社長については全然謎。」

「けど、スゴいよ!昴くんって情報網すごいんだね…!ありがとう。教えてくれて!」

「ふふふ!雅ちゃんの好きな黒田って人だったら、いいなーって!力になりたいんだよ。」

昴の目つきが変わり、私を見つめる。

「…昴くん?」

「黒田って人の代わりでもいい。僕をより所にして?
 雅ちゃんになら、なんだって出来るよ。」

ーぎゅうー

私は、昴の腕の中で違う人を考えている。
なんて、酷い女だろう。
その人が黒田だったら…なんて考えてしまう。

「昴くん。ありがとう。私大丈夫だよ。
 昴くんの代わりも、黒田の代わりもいないんだよ。
 よく…分かってるよね…?昴くんなら。」

「ん…。」
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