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くちなし
第7章 嘘
店を出て行く彼女を引き止める権利なんてない。
また、必ず手に入れたい。
俺の腕の中だけに、閉じ込めておきたい。
そんな願いは叶わない。

「………好きです。お嬢様。必ず、迎えに……。」

この声は届かない。
必ずこの手で…。掴んでみせる。


「…はっ…はっ…。」

雅は、走った。息が上がってしまい、苦しい。
この苦しみは何だろう。
今まで経験したことのない痛み。

「…っ…!!」

歩くと涙がこぼれてくる。

「………っふ…。」

止めようと思っても、止まってくれない。

「も…やだぁ…!!」

苦しくて、息が出来ない。
もう、真実が明らかになった。
堕ちるところまで堕ちた気持ち。


ーグイっ!!ー

「っ?!」

この香り。

「雅ちゃん!探したよ!」

「あぁ…。昴くん…。」

「どうしたの?!こんなに…冷えちゃって…!!
 社長になんかされた?!」

「ううん…違う!…違うの…。ただ…ちゃんと気持ちがわかったの…だから…。」

「…うん。わかった。無理に話さなくていいよ。
 雅ちゃん…。」

優しく頭を撫でてくれるその手は、大きくって温かい。

「昴…く……。ふ…っ!!」

「よしよし。泣けるだけ、泣きな。」

私の気持ちは、あの人以上なんていないのに。

「昴くん…抱いて…。お願…い!私…壊れそう。」

「っ?!」

こんな彼女の顔を見るのは初めてだった。
こんなに悲しい瞳をしているのに、頬は真っ赤だ。
恥ずかしさもあるだろう。なのに、なぜ僕を…?
動揺してしまった。
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