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くちなし
第7章 嘘
「……できないよ。そんな顔して…。」

「お願い…。」

「あのね、僕のことを求めてくれるのは嬉しい。
 雅ちゃんが好きなのは…あの社長だろ?
 僕に抱かれたからって…楽にはならないよ?」

「………。」

一瞬でも忘れたかった。
昴に嘘でも好きと言って抱いてほしかった。
利用しようとした。

「雅ちゃん。本気で、僕を好きにさせるよ?
 そして、僕も雅ちゃんなら、本気で好きになれる。
 それでもいいの?」

私を試すように見つめる。
その視線は私の全てを見透かしているように…。

「………。」

「本気じゃないなら…やめて欲しい。別の男を考えてる雅ちゃんを抱いても…お互い虚しいだけ。よく、考えて…。
 ………さ。帰ろう。」

手を取り歩き始めた。


宿泊先に戻るが、頭がボーッとする。

悠にメールを送る。


黒田に偶然会いました。
やっぱり、ダメだった。
今日は、もう寝ます。もう少しアルバイトしてから帰ります。おやすみなさい。


私は、この傷を癒やしてくれる人なら誰でもいいの…?
どこまで墜ちていくの?


ーブーッ!ブーッ!ー

「はい…。」

『もしもし?雅!大丈夫かい?』

「あ…お兄様…。」

『お前、熱でもあるんじゃないかい?!
 本当に…無理しないでおくれ…。』

「うん…大丈夫…。」

『明日、帰ろう。迎えに行くから。』

ープツっ!ー

「あ…。」

悠は電話が切った後、事情も話さず家を飛び出した。

「くそっ!!黒田…っ!!」

時刻は、夜11時をさしていた。
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