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目が覚めたら。
第5章 変態王子が暴走しました。


「……しーちゃん?」


 不意にナツに名前を呼ばれ、誤魔化すようにナツを見る。

 赤いアロハシャツに、白いハーフパンツ。

 首からピンクのレイをかけていながら、体は麻縄にて拘束中。


 へんてこりんな恰好の夢の王子様。

 甘やかな声音だけは変えず、優しくあたしに問いかけた。



「しーちゃん、雰囲気……違うよね。なんで?」



 ……まるで優しくない、話題で。



 どきっ。

 どきどきっ。



「僕ね……、しーちゃんがお腹空いているかと思って、朝イチに社長の自家用ジェットに乗せて貰って、渋滞する銀座から走ってここまできたんだけれど」


 ……ナツさん。その恰好で走られたんですか?

 というか、自家用ジェットって銀座に停まるんですか。


 ああ、そんなこと現実逃避だってわかっている。

 ナツが言いたいことがよくわかるだけに、その件には触れて貰いたくないのに――。



「なんでそんなに、満腹そうなお顔?」


 ナツは可愛く微笑みながら、こてんと首を傾げた。

 まるで純粋、天使のような無垢な笑顔。


 ……だけど細められたその目は、笑っていない。

 腹の中は、邪念で一杯のはずで。


「しーちゃん、なんで体からタバコの匂いするのかなぁ?」


 ……しかもその邪推は、正解だからタチが悪く。


「ん……? 僕、お馬鹿さんだから、わかるように説明してくれる?」


 難関私大に現役合格している男は、問答無用の剣呑さを潜めた声音で、あたしを追いつめていく。
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