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目が覚めたら。
第6章 変態王子が暴走しました。2

 

「サクラは本当に接客業に向いてるよね。僕は全然だから羨ましいよ」

「どこが!! 反対じゃない。あのクソメガネのどこが接客業に向いて……」


 ナツが促した先に居るクソメガネは、あたしに対するものとはまるで違い、実に愛想を振りまいて優しげで。あれだけ物腰が柔らかければ、常連客は増える一方だと思われる。


 つまりあたしだけ、冷遇されていたらしい。

 12年後も、堂々と馬鹿にされているらしい。


 腹立つな~っ!!

 ユリ、あんたの弟、殴っていいかな!!



 そんな時、カラーンと鐘がなってドアが開く。

 セットのアイスティーを飲みながら、何気なしにそちらを見たあたしは思わず吹き出して、ナツの顔に噴射してしまった。


「ごめん、ナツ……」


 慌てておしぼりでナツの顔を拭くが、


「いいよ。だけど今度、しーちゃんのお顔に噴射していい? 僕、やって見たかったんだ顔射ってやつ」

「……黙れ変態」

 あたしは思わずおしぼりをナツに投付けた。


 ああ、そんなことより。

 ナツの手を揺すぶり静かに前傾姿勢にさせて、あたしは個室のような場所に入っていったカップルを指さした。


 ナツの目が大きくなる。


「波瑠兄だ」


 しかも緋色の口紅がやけに毒々しい、派手な美女と連れだって。

 ……ハル兄、なんで白衣をコートのように着て外歩いているんだよ。

 衛生もあったもんじゃないし。


 そう苦笑すれども、心の中は複雑だった。

 そうだよね……ハル兄も、女の人……いるよね。


 生々しく蘇るハル兄との絡み。

 あたし以外の女に、ハル兄は――。


 ずきんと胸が痛んだその瞬間。


 バッチーン。


 思いきり大きな平手打ちの音が店内に響く。


 ……まあ、慣れた場面ではある。

 過去なんどもあたしは、そんな場面に遭遇した。


 いわゆる修羅場っていう場面に。


 またなにかやらかしたのか、ハル兄。

 さて店内に不穏な空気がただよったのを、どう処理するクソメガネ。


 心の痛みを紛らわすように、あたしは傍観者に徹した。





 
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