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目が覚めたら。
第6章 変態王子が暴走しました。2
あたしが小学生の時、音楽の実演テストがあるのに家に忘れてしまったリコーダーを届けに、学ラン姿のハル兄が小学校にやってきた。
リコーダーを受け取ってすぐ終わる朝のひとときのはずだったのに、ハル兄は泣き叫んで化粧をぐちゃぐちゃにさせた化物みたいな女も引き連れてきた。
当然、通学してくる小学生で溢れる小学校前では目立つ。
そそくさと校舎に入ろうとしたあたしに、なぜかハル兄はリコーダーを離さない。
――届けてやった俺様に、なんだその態度。もっと丁重に礼を尽くせ。俺様が満足するまで渡さねぇ。
泣き叫ぶ女には見向きもせず、小学生のあたしに"ガキかお前"と思われるくらい、一方的なおかしなこだわり見せたために、あたしも騒動に巻き込まれてしまった。
あたし史上、恥も外聞も捨ててギャーギャー泣いて崩れる様は、赤子の夜泣き以外に聞いたこともなく。"処女を捧げたのに"、"中ダシさせたのに"、"なんであっちが本命なの"……およそ小学生にはハイレベルな台詞も、意味不明なりともあたしには聞き慣れた常套句であって。
"ハル兄には本命はいない"と言いたいのを我慢するあたしは、女を完全放置で公害化させながら、今なんで感謝表現のあり方にこだわるかわからないハル兄に、何度もダメ出しされて逃げ切れず。
そのうち先生は来るわ、野次馬は膨れあがるわ、遠くでパトカーの音まで聞こえてくるわで……依然リコーダーを離して貰えないあたしの堪忍袋の緒が切れた。
――この女の敵っ!
ランドセル姿のあたしは、ハル兄が背を向けた隙に膝かっくんに成功。ハル兄の体勢を崩した直後、緩んだ彼の手から抜き取ったリコーダーで、金髪頭をゴツンゴツンと三回も叩いた。
――なにするの、私のハルに!
女の敵を制裁してやったはずなのに、女が怒ったのはあたしの方で。
――なにしやがる、俺のシズに!
そんな女に怒ったのはハル兄で。
――なにをしてる、皆の小学校の前で!
そんなハル兄を怒ったのは、笛を吹き吹き走ってきたポリスマン。
……そんなエンドレスな修羅場。
あの頃のハル兄は、きっと現役総長。
だから警官見たら走って逃げたんだ。サバンナを駆け抜ける俊足を見せ、食い散らした女を置いて。
……鬼畜と書いて、"クズ"と読むことを知ったあの頃。