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目が覚めたら。
第6章 変態王子が暴走しました。2
 
 
 そんなことを思い出している中、クソメガネが動いた。


 話し合いの席に座りたくないとでもいうように、依然立ったままのあさっての方向を見ているハル兄。

 一度椅子に座りかけたもののすぐに立ち上がり、ハル兄の正面にて引き攣ったおかしな声をあげて、昂奮しまくる女。

 
 ふたりの横に立つのは、度胸と顔だけはぴかいちの一介のウェイター。


 固唾を呑んで誰もが見守る、修羅場突入のランチタイム。


 言葉と常識が通じない鬼畜に、インテリぶった陰険が太刀打ちできるか。


 クソメガネがすっと歩み出る。

 ハル兄が不機嫌そうに目を細め、上げた片手を一度ひらりと動かした。クソメガネを追い払うように、"しっしっ"。

 その横柄な態度に、なにも言わないクソメガネは無言を貫き通し、従順に動きをとめている。


 さすがの陰険も、鬼畜オーラに飲み込まれたか。


 そんな中ハル兄は、クソメガネを払った手を正面に伸ばし、あたしからは背しか見えない女の胸ぐらを掴んだようで――。


「――っ!?」


 ブッチュウとやらかした。


 ちぅぅぅぅの変態王子レベルではない。

 ぶっちゅぅぅぅぅぅぅぅ、だ。


 ああ、麗しのランチタイム。


「ふっ……ぁっ、んんっ……」


 聞こえてくるのは、女の悩ましい喘ぎ声。

 舌をもフルに使っているらしい帝王の攻撃に、聞き耳立てていた客が全員顔を赤らめ、両足をすりすりとさせている、異様な光景。


 ハル兄はまだ、キスしている。


 あたしがきゅんとくる、タバコを吸う時のような不機嫌そうな顔で。

 ……ハル兄が感じている時のような、苦しげな顔で。


 あたしの中で、どろどろとした黒いものが渦を巻く。


 あたしにはキスをしてくれなかったくせに。

 あんな女相手なら、してしまえるんだ?

 なんであたしは駄目だったのかな。


 複雑な心が蘇る。


「……。しーちゃん、苦しいの?」


 ナツのいやに抑えられた声音が聞こえた。


「苦しい?」

「自覚ないの? 凄くつらそう」


 そしてナツはその言葉以上の辛そうな顔で、いまだディープだろう……クソメガネの前ですごいキスをしたままのハル兄を見る。

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