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目が覚めたら。
第6章 変態王子が暴走しました。2
 
 静まり返った店内。


 聞き耳立てた客達の、あくまで彼女達が主役の脳内をピンク色に染め上げるナツは、必死になればなるほどに恥ずかしいことを臆面も無く叫ぶ。


 暴走王子、現れる。


「わ、わわわわかったから落ち着いて!!」


 ……わかっていないのはナツひとり。


「本当にわかってる!? しーちゃん、キスは……特別なんだよ、僕達兄弟にとっては」


 僕達兄弟?

 あそこで簡単にキスしている男のキスも特別だって?


「波瑠兄の意味には気づかないで。だからキスは、僕とだけしよう?」


 ナツがあたしの手を握ってきた。

 恋人握りだ。かなり卑猥に指が動いている。


「しーちゃん、ずっとずっとキスしよう? 僕は……そんなキスをしーちゃんと出来て、しーちゃんが応えてくれるだけで嬉しくて仕方が無いんだ。しーちゃんとのキス、大好きだ。しーちゃんを蕩けさせたいのに、僕の方が蕩けさせられて……いつまでも、永遠にしていたくなる」


 まるで公開羞恥プレイ。

 これを受けた女性の皆さんは、ふたりきりの閉鎖的世界に浸れるものなのだろうか。


 あたしだけなのだろうか、周りの目が恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないのは。

 あたしが自意識過剰すぎるのだろうか。


「しーちゃんが愛しくてたまらない」


 せめて場所が違えば、あたしも反応が違ったのだろうけれど、場所など関係ないという直球しか投げないナツは、目を泳がせて顔を背けてしまうあたしの態度に不服のようで。


「しーちゃん、僕をちゃんと見て。僕とのこと、もっと真剣に考えて? 僕の彼女になってよ。僕、尽くすから。ねぇ、本物の恋人のキスをしようよ」


 "えええ!? あんな女が手玉に取ってるの、あの王子様を!!"

 "遊んでいるのはあの女の方!? この罰あたり死んじまえ!!"


 ……多分、そう思っているんだろうな。

 うん、そうだろうね。


 ランチタイムはあちこち、愛憎の坩堝。


「しーちゃん……」


 縋るようなナツの目。

 あたしの愛を一心にせがむ目。


 それは昔からなにひとつ変わらない。


 昔と違うのは、そこに男と女の情欲が混ざるかどうか。

 肉体の欲望を伴うかどうか。


 それを思えば、あたしはナツを求める気持ちはある。

 確かに昔とは違う感情がナツにはある。
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