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目が覚めたら。
第6章 変態王子が暴走しました。2
あれは我が家と佐伯家合同の温泉旅行の際。
ナツは地味過ぎる両親に、連れられるのを忘れられた逸話がある。
佐伯家の実の両親は、"ホームアローン"を現実に起こしたのだ。
それに気づいたのは、女の家からホテルに直行したハル兄だった。
ハル兄は女との予定は平気でブッチするくせに、両家の合同行事には必ず顔を出す、不可解な律儀さがある。
――なんでナツを忘れるんだよ!? あ゛~。俺が家に居たなら!!
両家車を別々にしてホテルに向かっていたあたしは、佐伯家の車にナツが乗っているかどうかなど確認していなかった。
佐伯家のママが慌てて家に電話をかけると、辿々しくナツが出たという。
――ごめんね、戻れそうにないから、ひとりで温かくして寝てるのよ?
外は嵐。
一方的に留守番を頼まれたナツ。
温泉楽しんできてねと朗らかな声を出したという。
――あの子なんて優しくて可愛いんでしょう。波瑠に似ないでよかったわ。
風邪気味だったあたしは薄着のまま、嵐の中に飛び出した。
丁度来た最終バスに飛び乗り、お小遣いをはたいて家に戻る。
アホか。
こんな嵐で雷が鳴っている時に、ひとり置き去りにされている4歳になったばかりの子供の気持ちになってみろ。
4歳に温泉を楽しんできてねとまで無理して言わせて、それをイイ子だと喜ぶ親があるか!!
あたしは昔から雷が恐い。
雷の夜、あたしと一緒に隣の家からも、子供の悲鳴が上がっていたことをあたしは知っている。
当時あたしはナツを可愛がっていたわけでもないし、懐かれていたわけでもない。ただ隣家の子供で、ハル兄の弟だったに過ぎない。
およそ子供らしからぬ、喜怒哀楽のうち笑顔しか見ない近々の表情を苛立って見ていたほど、好意的には思っていなかった。
だけど相手は子供だし、嫌ってはいない。むしろハル兄の尋常ではない顔の造りと正反対のぶちゃいくさを微笑ましくは思っていた。……ただそれは、あくまで客観的視点からにおいて。
それでも、あたしはナツを見捨てて温泉は楽しめなかった。
むしろついていてやりたいと切望したのだ。