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目が覚めたら。
第6章 変態王子が暴走しました。2
あたしは雷が鳴る度に、ぎゃあぎゃあ叫びながらなんとか家に戻った。
……案の定ナツは停電した部屋の片隅で、ハル兄が誕生日にプレゼントしたまるで可愛くないウサギのぬいぐるみを抱きしめて泣いていた。
稲妻が走る中、懐中電灯を持って手を伸べるずぶ濡れのあたしを見ると、失礼にも絶叫して失神したナツ。
ナツを憤然とたたき起こし、雷が静まるまで互いに泣き叫びながら、励まし合った。どちらが励まされたのかわからない。
ひとりっ子のあたしは小さい子供のあやし方などわからない。
だけどハル兄だって、ナツが生まれるまではひとりっ子だったんだ。
ハル兄があたしを手懐けられたのなら、あたしにでも出来るだろう。
停電中、懐中電灯の電池切れも間近らしく(非常用に役立たないじゃないか!)、ちらちらと光が揺れ出し始めた不穏な状況の中での悪戦苦闘。
てっとりばやくふたり眠ればいいのに、それすら思いつかないあたしは、とにかくやたら寒気が走る体を我慢して、ひたすらナツのベビーシッターをした。
ナツ目線で話を聞いたり、声が枯れるまで歌を歌ったり、しりとりやじゃんけんなどで遊んだ。
テンションを上げれば、体力気力がごそっと奪われる。
保母さん最強と思った瞬間だ。
夜11時過ぎ。それまでの"楽しませなきゃ"という緊張を突き破り、MAXのハイテンションモードであたしは弾け出した。
理性の限界突破は一瞬にしておこるらしい。
ケタケタ笑いが止まらず、ネジ3本くらい弾き飛ばし、高揚した熱い体で自ら踊り出したのはロシアのコサックダンス。両腕を組んで足を片方ずつ伸ばして…を繰り返す、筋トレかと思えるそのダンスがやけに愉しくて、ナツを引きずり込み、ふたりで口ずさむ童謡に合せて部屋中を踊り廻る。
そんなあたしを、眠そうな目をしているくせに眠らないナツが、哀れんだ顔で見ていたのはうっすら覚えている。
部屋に電気がついた時、その異様な光景を目にしたのは、ハル兄だった。
――………。悪ぃ、ちょっと単車が事故って時間かかった。
あえて踊りのことを口にせず、顔色悪いハル兄もまたずぶ濡れだった。
……ああ、ハル兄が来てくれたからもう大丈夫。
安心のあまりふわりと意識が飛んだ――。