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目が覚めたら。
第6章 変態王子が暴走しました。2
 

 そしてふたり仲良く退院した以来だ。

 ナツがあたしのストーカー化したのは。


――しーし、しーしっ!


 オデブで膨らんだお腹を擦りつけるようにして、あたしに抱きつき、公然と"しーし大好き"を公言して、保育園に入園間近の子供があたしを追いかけ回し始めた。


 やや引きこもり気味だったナツが、外に目を向ける契機になると、両家は好意的に受け止め誰も助けてはくれなかった。

 ナツの外はあたしだけしかいないという現況を、気づいてもいない。

 ナツの好意は次第にオトコのものとなっていることも、気づいてはいない。

 数年経った後でも、小学生に入ったばかりの幼さという固定観念で、ナツの"オトコ"はその数倍の早さで急成長しているという事実を見ようとしていなかったのだ。……あたしですら。


 ナツの"大好き"が独占欲となり、あたしの彼氏に嫉妬の眼差しを向けるようになった。具体的に恋だの愛だの結婚だの、どちらかといえば、夢見がちな恋愛に憧れる乙女思考であたしに迫るようになってきた。

 それでもナツが時折見せていたのはオンナではなく、オトコの情。

 あたしが逃げたり強く拒めば、ナツはしくしく泣く。どんな容貌でもナツの涙は本当に純粋で綺麗に思うあたしは、社会に穢れていたのだろうか。

 もう本当にどうにかして欲しいと、リアルの恋愛事情を優先したいと思いつつも、ナツは傷ついていないだろうかと心配になってしまう。


 そんなあたしの甘さが祟ったのか……今に至る。

 
 多分12年後の今のナツが、昔のようにブチャイクであったとしても、あたしは変わりなくナツに甘いだろう。

 なんだかんだとあたしは、不出来ながらも一生懸命なナツが可愛いのだ。

 不出来ならあたしも同じ。同類ゆえの共鳴なのかもしれない。


 ……まさか、イケナイことをする仲になるとは思ってはいなかったけれど、ナツだから心許せる部分もある。


 ナツが置いてきぼりにされたあの嵐の日、ふたりで泣き叫んだ思い出があるからなのかもしれない。あの日、ナツとあたしの心は共振していたから。


「しーちゃん、図書館編楽しみだねぇ」



 ナツはどうしても最後のアミダ結果を決行したいらしい。

 この笑顔が壊れるくらいなら、ああもう……なるようになれ。


 葉山静流、90分の耐久レースに突入します――。

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