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目が覚めたら。
第6章 変態王子が暴走しました。2
 

「ナツのお勉強は何分かなぁ? 30分? 1時間?」

 
 あたしが楽しそうに言うと、ナツの顔は見る見る間に悲しみに歪められ、きゅっと口を真一文字に引き結んでから言った。


「しーちゃんは……。傍に僕がいるのに、僕にそんなに長く放って置かれても平気なの?」

「だってナツはお勉強でしょう? だから寂しいの我慢しなきゃ」


 ちょっとした八つ当たり。それにあたしはナツの勉強の邪魔をする気もないし、隣でじっとしていることで怪しげな90分耐久レース時間が平穏に僅かでも短くなるのなら、御の字だ。

 勉強だから最低は30分かかるだろうと予測したのだけれど、ナツにとっては"そんなに長い"時間だったらしい。


「寂しそうじゃないよね。僕といちゃいちゃする時間が減ることにも、全然堪えてない。むしろ嬉しそう!」


 あたしの態度が不服そうなナツの頬は、ぷっくりと膨れあがる。


「だったら僕レポート書かない。提出しない。留年してもいい。だからしーちゃんといちゃいちゃする!」


 ナツは突然、横からあたしの腰に両手を回して、体を曲折させるようにして腹部に頬をすり寄せてきた。


「また距離を感じるくらいなら、ずっといちゃいちゃしてしーちゃんを繋ぎ止めるっ!」


 ……話が曲がった。


「待てぃナツ、あとは仕上げて提出すればいいだけのレポートを、なんで留年にまで発展させる! 勉強しなさいっ!」

「やだっ! 僕、しーちゃんといちゃいちゃする!」


 駄々っ子の潤んだ上目遣い。

 ゴロゴロと……まるで猫のように喉を鳴らして甘えてくる。


 こんなに可愛いのに、あたしを抱きしめるのは男の強い二の腕。

 その目に滾らせるのは、男の欲。


「しよ?」


 決して幼児の親に対する愛情表現ではない。

 親からは得られない、それ以上の強い愛をせがむ目だ。


「しーちゃん、ねぇ……しよ?」


 ああ――。

 あたしはこの……熱を孕んだ濡れた目に弱い。

 あたしを誘う、魔性のような男の艶気に満ちた目。


「ねぇ……静流」

 
 否応なしに引き摺られる。

 拒みきれない吸引力。


 こうされるとあたしは……。

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