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目が覚めたら。
第6章 変態王子が暴走しました。2
 書庫の中は黴臭い冷気が漂い、書棚には古めかしい本が並んでいた。

 ぽつんぽつんと閲覧用の机と椅子には先客がいるようだが、書棚に人影はないに等しく、書庫は人気がまるでない寂れた印象を持った。

 ふと見た書棚に、少しぼろぼろの本が飛び出ていたのが目に入り、思わず足を止めてしまった。


「どうしたの、しーちゃん、行こう?」

「ん……ちょっとあれ直してくる」


 無性にそれが気になったあたしは、ナツの手をするりと離してその前に行くと、飛び出ていたものを戻した。

 そして周囲を見れば、皆ハードカバーのようできちんと背表紙がついているのに、あたしが戻したものは紐綴じで出来たもので、どう見ても異質だった。


「しーちゃん、行こうよ」

「ちょっとだけ待って」


 急かすナツを片手で制して、その本を再度引き抜いてみれば、紅色の表紙で表紙タイトルも中身もなにが書いてあるかわからない、ぐにゃぐにゃとした筆字で綴られている。


「ねぇ、ナツこれ読める?」


 そう聞いてみたら、ナツがじとりとした目を寄越した。

 
「ねぇそれ……僕の手を離してまでしなきゃいけないこと? それともわざと?」

「え?」

「焦らしプレイ? 僕を試しているの? だったらお生憎様、試すまでもない」


 なにを言っているのだろうと首を傾げた瞬間、苦しげに眉間に皺を寄らせたナツが、あたしを書棚に押しつけるようにして、唇を重ねてきた。


 "棚ドン"だ。


「しーちゃん……しーちゃん……」


 突如熱で浮かされたように愛おしげに呼ばれる名前。

 呼応するようにあたしの体温が上がる。


 下唇をはむはむと甘噛みしたり、浅く差し込んだ舌で歯茎を舐めてくるナツは、息を乱しながら至近距離で囁く。


「しーちゃん、僕の状態わかってよ。なにより優先して僕を求めてよ。僕におねだりしたじゃないか。もうそんな気持ちじゃないの?」


 もどかしそうに声を震わせながら、


「僕は……頭の中、しーちゃんでいっぱいなのに。どう愛そうか、いやらしいことでいっぱいなのに」


 ぎらついた眼差しへの変化は一瞬――。


「好きなオンナにねだられたんだ。今すぐしーちゃんを愛したくてたまらない。道草付き合う余裕なんてない」


 今までのお花が咲き乱れていたナツではなく、これは欲情しているオトコの眼差しだ。
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