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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
 


「母さんただいま~。しーちゃん連れてきたよ」


 特攻ナツ、家に帰る。

 ぱっと明かりがついたお隣さん。


 あたしの家と佐伯家は、ここ周辺では珍しい同じモデルの建売住宅を購買したらしく、見た目はただ単に左右対称の小さな一軒家だ。


 何度も互いの酔っ払いパパが間違って、お隣に帰ることがあった。

 一緒に飲んでいたふたりが隣の家に戻り、ふたり隣家のベッドで寝ていることに、ママさん達は微笑ましく笑い合っている朝、幼いあたしは誰が両親なのかわからなくなってしまったこともあった。

 それくらいそっくりで、強い絆を感じずにはいられない二軒の家。それくらい仲が良い、葉山家と佐伯家。


 だから葉山家に待ち人がいなくても、佐伯家にいると思っただけで心がじんわりと温かくなる。


 おじさんとおばさん、元気かな。

 少しは個性を強めて、脱平凡しているのかな。


「シズ、荷物出し手伝え」


 帝王に指を鳴らされ、ナツ追いを断念。帝王様の命令に即座に平身低頭になるあたり、下僕根性は12年眠っていても体に染みついているようだ。

 静かな夜空のもと、あたしと帝王様が車の後方に寄り添って立つ。


 ハル兄の手が動いているのが見える。


 昔と変わらず大きな手。

 あの手は――。

 
 あたしはトランクと思われるやけに小さなスペースから出される、小さく少ない荷物を受け取りながら、咥えタバコの帝王様をじとり。


「……なんだ。喧嘩でも売ってんのか?」


 帝王様はガラ悪い顔で、ぎろり。


 ヤの職業の方々にスカウトされ、修羅場をくぐり抜けた真性の睨みは半端じゃない。内心震え上がりながら、それでも必死に心を強く持った。



 あたしはひと言、言いたいのだ。


 あの手。

 あのレストランでの、机の下での一件のことだ。


 ふたりきりの今がチャンス!! 

 あのことを忘れさせるようなスピード狂の暴走に付き合わされたが、忘れていませんとも。何事もなかったかのようにされるのでは、あたしの女がすたる。

 ハル兄の出来心に流される女だと思わせてはだめだ。恐怖の帝王だろうと、つけあがらせるな。行け行け静流!! 愚民なりに女の尊厳を主張し、帝王に直訴だ!!
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