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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
あたしの記憶ある佐伯家の玄関は異質だ。
絵画好きのおばさんの趣向を全面に取り入れ、客が引いてしまうほどの大きな油絵の絵画(ただしレプリカ)が拡がっているはず……。
「静流ちゃん、お帰りっ」
それは佐伯家のおばさまの声。
「よく目覚めてくれたなぁ」
そしておじさま。
声がするが、すぐにはみつけられない。
……等身大の写実的な男女が沢山描かれている絵画に混ざり、やはり12年後もふたりのお顔が行方不明。
そう、背景の絵画に溶け合うほどに、平凡すぎる平坦なお顔。
背景に同化できるのが、突然変異たる兄弟に並ぶ"特殊"要素ともいえる、尋常ではない凡庸さ。まるで忍者の……リアル"隠れ蓑術"。
それが突然飛び出し迫り来て、そこで初めてわかるおばさまの輪郭。
点の目から涙を零し、線のお口を波形に曲げて、両手を広げてあたしに抱きつこうとしていた。
平凡顔だけれど、心は温かい。
あたしを自分の娘のように抱きしめて、おいおいと泣いてくれる他人はいないだろう。つられてあたしも抱きつこうとした瞬間、相手がすり替えられた。
両親に咎められてもナツは口を尖らせてあたしと抱き合ったまま。
そんなナツの襟元を片手で摘まみ、あたしごとハル兄は引き摺りながら居間に入る。
居間には大きく、
『シズルちゃん、お目覚めおめでとう!!』
という大きな横断幕と、大きなテーブルの上にはご馳走とホールケーキ。
それを見た瞬間、佐伯家全員が手にしていたクラッカーを鳴らした。
「おかえり」
ハル兄がわざとあたしの耳もとでクラッカーを鳴らして、音にくらくらしてしまったけれど……。
「ぐすっ……」
ああ、駄目だ。
我慢してたのに、もう駄目だ。
「だだい゛ま゛~っ」
あたしはその場で、泣き崩れた。
パパとママには会えないけれど、パパとママが大好きだったお隣さんは温かく迎えてくれました。
こんなにご馳走と飾り付けを用意して、あたしの帰りを待っていてくれました。
「うわあああああん」
12年分の思いが涙となって迸る。
12年で変わったものもあれば、変わらぬものもある。
「ごれ゛がら゛も゛よ゛ろ゛じぐお゛ね゛がい゛じま゛ず」
あたしは土下座した。