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目が覚めたら。
第7章 鬼畜帝王が暴走しました。
白皙の王子様の白いタキシード。
リアル王子様の正装に変身したナツは、僅かに頬を赤く染めてちらりとあたしを見ると、ぺこりと頭を告げて挨拶をする。
そんな時、おばさんがさっと走ってきて、今まで横断幕が垂れていた……後ろの派手な布ごと外せば、そこにはピアノが出てきた。
真っ白いグランドピアノ。
それは――。
「静流ちゃんの家にあったピアノ、ちょっと拝借させて頂きました」
まるでナツのような口振りのおばさん。
あのピアノは、ママが大事にしていたものだ。
ママはピアノが弾くのが上手だった。
ナツが僅かぎくしゃくしながらピアノの椅子に座る。
そして鍵盤に両手を置いた。
「――え!?」
ナツは弾き始めた。
ショパンのエチュードを。
ママが大好きだった曲を。
「ナツ……練習したのよ、12年。静流ちゃんのお母さんに少しでも近い腕前になろうとして」
白いタキシードの王子様が弾くのは、白いグランドピアノ。
できすぎな夢の一幕の中、響き渡るのは繊細な音の旋律。
12年前、ナツはピアノなんてまるで弾けなかったじゃないか。
中学時代でピアノを挫折していたあたしは、ママの遺品であるピアノを、どうしても捨てることも売ることもできなかった。
何度も安いピアノ椅子をその体重で壊しながら、ママが太い指先から奏でたのは綺麗な水のような旋律が大好きで、あたしは小さい頃からよくママにせがんで、目を瞑って聞いていたものだった。
その思い出を捨てることが出来なくて。
そうだ、12年前……あたしは悲嘆に暮れていたんだ。
今、ママのような流麗な音が奏でられている。
まるで12年間の時間を巻き戻すかのように。