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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
思えば、ハル兄は昔からあたしの一番最初を欲しがった。
たとえば、初めてのカレーライス作り。
皮を剥かずに、とりあえず斬ってみました状態のぶつ切り野菜がぷかぷかと浮かぶ、カレールーと間違えて入れてしまった大量板チョコの海。
それを知らずにあたしは得意になって、今まさに全裸の女に覆い被さって侵入しようとしていたハル兄の居る隣家の部屋に、笑顔のままスキップで押し入った。
確か、まだナツが生まれていなかったその日、佐伯家の両親は旅行中だったはずで、ハル兄は自宅を(だけど自室ではない)連れ込みホテル代わりにしていたのだろう。
彼がなにをしているのかわからないあたしは、ただひたすらカレーを作り上げたという自慢を、ハル兄にし始めた。
――シズ、すごいでしょう~。ハジメテのカレー、今ぐつぐつしてるの~。
――カレー……。お前のハジメテか。じゃ今すぐ食いに行くわ。
――え、私は!? ハル、私だってハジメテ……。
――ハジメテの重みが違うんだよ。
この時から"3つの信条"が施行されていたのか、服を着たままだったハル兄は、ズボンを上げるだけですぐに支度が完了し、茫然自失の……多分据え膳処女であろう全裸女を完全放置して、うちに来た。
――いいか、シズ。俺に一番先に盛れよ?
――うん。いっぱいたべてね。おかわりもしてね。
そして笑顔で始まった食事タイムは、凄惨な地獄となった。
作った本人もパパとママも思わずその場で吐き出したそのカレーを、ハル兄だけは顰めっ面で黙々と食べた。しかもおかわりまでした。
……その後、家に戻ったハル兄の姿を、一週間ばかりみかけず、次に会った時は、なんだかげっそりして痩せていた。
その間に旅行中から戻って来たおじさんとおばさんも、その一週間にハル兄になにが起こっていたのか、いまだに教えてくれない。無論本人も。