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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
警察を派手に振り切ったバイクが行き着いた場所は、12年前では最高級セレブ御用達と言われていたエンペラーホテルだった。
日本語に直せば"皇帝"……いや"帝王"ホテル。
ハル兄のためにあるような宿泊施設の名前だ。
今でも見るからに圧巻。王者の貫禄がある。
老舗ながらもその落ち着いた色合いが、重々しい豪奢さを煽るこのホテルは、大人向けの多くの娯楽施設を融合している盛大な敷地面積を持つ。
まるで街を併合したひとつの国のよう。
昔から帝王ホテルは、あたしの中では朽ちる事なき、帝王の城なのだ。
12年後にこれを超えるホテルが出現していたのだとしたら、それは間違いなく成金ホテルであり、年月が経つと共に寂れる代物だろうとあたしは勝手に思っている。
そんな場所に、ハル兄は順列する黒塗りの車に混ざってバイクをホテル正面につける。
ひとつ前の胴の長い黒塗りの車からは、正装姿の煌びやかな紳士淑女が降り立ち、正面ドアの立て看板には『国際交流セレモニーのため貸し切り』と描いてあるのが見えた。
困った顔をしてこちらにきたホテルマン。
間違いなく門前払いを食らうのだろうと思いきや、ハル兄はなにやら一枚のカードを見せると、突如ホテルマンは背筋を伸ばし、帝王に恭しくお辞儀をし出した。
何が起きたのかと目を瞬かせるあたしの前で、
「シズ、降りるぞ」
ハル兄は、ご自慢のバイクとキーをホテルマンに渡し、あたしの手を掴んでホテルの中に入る。
その堂々たる風情は、居城にご帰還なさった帝王そのもので、思わずあたしはおつきのもののひとりとして、頭を下げたくなった。