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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
まるで世界はふたりだけのためにあると言わんばかりの、目立つ場所でのハル兄の片手抱擁。
目立たぬ平凡男が相手なら、きっと豪奢な風景に朽ち負けた場面となったものの、相手は俺様の帝王だ。
俺を見ろと言わんばかりの圧倒的なオーラが、今までこちらに見向きもしていなかった者達までの視線を、余計に集めた気がする。
逞しい胸板に押しつけられて息苦しくなったあたしが、身じろぎしながらなんとか顔の自由を取り戻し、浅い息をしながら周囲を窺えば、嫉妬、憎悪、嘲り……とにかく向けられている表情は悪意だらけで、また息が詰まる。
その中で不可解な悲鳴を上げている男達もいて、そこまであたしはハル兄とは不似合いなのかと悲しくなる。
このまま消えたい。
あたし、この集団虐めに喜ぶマゾではないもの。
ピンポンパンポーン♪
絶賛大顰蹙(ひんしゅく)中、ホテルに鳴り響くのはアナウンス。
来賓客に向けて、大広間への移動を促すものだったらしい。
ざわめきながらも彼らが動き始めたのを見計らい、それにまぎれるようにしてあたしは、まだ片手から離そうとしないハル兄を、近くのエレベータに押し込んだ。
人の目がなくなったことにひと安心したものの、ここからどこへ?
ホテルといえばフロント。
フロントはいずこ?
というより、部屋ではなくレストランや娯楽施設に行こうとしていたのかもしれないし、あたしは予定を聞いていなかった。
どうするのかとハル兄に尋ねれば、むすっとした顔のハル兄はやはりあたしを離さないままに、ホテルに入る時に見せたあの謎のカードを、乗り込んだエレベーターのボタン盤の横にある縦長の溝にスライドさせた。
すると、階数ボタンを押してないのにエレベータが上昇を始めたのだ。
"俺様カード"で、なにをした、帝王!!