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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
さあ、お風呂に入る支度でもしようと棚を開ければ、中にあったのは、生理用品。お買い得用ナプキンゴロゴロ。
「………。うん、これはきっと……ハル兄は痔なんだ。可哀想に。きっと座ってばかりいる職業が祟ったんだね」
空笑いをしながら、ふと目に入ったのは洗面台の上のコップ。
そこにあるのは青とピンクの歯ブラシ二本。
「………。ハル兄はきっとタバコ臭が気になるから、二度磨いて……。ぐすっ」
あたしは鼻をすすりながらその場を出て、近くのドアを開けた。
そこは寝室。
……最近まで使われていましたと言わんばかりの、乱れたシーツ。ゴミ箱に入らなかったらしい、丸まったティッシュの散乱。封が破られた……銀色の小袋。
「もう、鼻かんだ紙くらい片付ければいいのに。しかもベッドでお菓子食べるなんて、寝相とともにお行儀が悪いな」
サイドテーブルに置かれた、光るものは……。
「真珠のイヤリングと……口紅……。きっとハル兄は、女装癖が……」
ぼんっ。
想像が出来ず、あたしの思考回路がショートした。
もう、脳内フォローは出来ない。
ここでハル兄は女を抱いていたんだ。
しかも至る所に痕跡を残せるほどに、ハル兄にとっては、一夜以上相手にしていた女であって。
いつものポイ捨てにされるような女には、こんな場所にも連れないだろう。
避妊するほど大切で、簡単には捨てられない相手と、体を何度も重ねていたのだ。
「……院長夫人とか……?」
そうだとしても、違うにしても。
ここにあたしを連れるのなら、その痕跡を隠して欲しかった。先に見回って、証拠隠滅して欲しかった。
想像してしまうではないか。
ハル兄はどんなに激しく女を抱いたのか。
どんなに甘い言葉をかけたのか。
わかっていたのに。
女を食い散らかす女の敵だということをわかっていたのに。
ハル兄の体の味を知るあたしは、ハル兄との情事を脳内再生できてしまえるだけに、生々しい残骸は……心が痛くて。
「う……ひっく……」
ハル兄はあたしひとりのものじゃないんだ。
ハル兄にとってあたしは、やっぱりその他大勢のうちのひとりなんだ。