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目が覚めたら。
第1章 貴方は誰ですか。
 怒り任せにぱっちりと目を開けたあたしの視界に飛び込んだのは、



「しーしっ!!」



 長い睫毛に縁取られたアーモンド型の目。

 きらきらと潤んで光る、ココア色の瞳。

 ミルクティー色の柔らかな髪をふわふわと揺らす、どこまでも甘やかに整った、ハーフのような顔立ち。


「よかった、しーし……目覚めたんだね!?」


 このお上品な甘い王子様が紡ぐのは"しーし"。

 あのハナタレおデブが勝手に使う、その不名誉の愛称を平気で使っている。


 誰だ、コイツ……。


 しかも辺りを見渡せば、見慣れぬ部屋に居る。

 この、独特な消毒液の匂いは……病院?


 あたしは、簡易ベッドの上で、白濁色の点滴をされている。


「しーし、しーしっ!!」


 王子様はあたしに抱きついてくる。

 ああ、この甘い声があたしの排尿意識を掻き立てる。


 まるでナツに抱きつかれているような妙な既視感。


「ねぇ貴方誰ですか?」


 もしや、"しーし"しか喋れぬ「しーし国」の王子様?


 すると男はがばりと顔を上げた。アーモンド型の目が驚きにまんまるだ。そしていたいけな小娘のように、よよよと泣き崩れる。口惜しそうに唇を震わしながら。


「僕を忘れちゃったの、しーし。僕は今までずっとしーしに尽くしてきたのに……」


 はらはら、はらはら。

 双眸からは、女より綺麗で儚げな……透明な雫。

 
 ああ、これではまるであたしが悪女じゃないか。

 どう見ても、彼の方が痛ましい。


 複雑な心地でいた時、彼は言ったのだ。



「僕だよ、しーし。佐伯奈都(さえきなつ)。しーしより10歳年下で、波瑠兄とは17歳違いで家はお隣同士。覚えて無いの、しーしの恋人をっ!!」



 ………。


 どこをどう突っ込んで良いかわからない。

 あたしの記憶が確かであれば、10歳年下のナツはいがぐり頭のハナタレデブの小学生。しかも断じてあたしの恋人ではない。


 これのどこが、7歳の小学生か。

 これはどう見ても、あたしより年上のモデル真っ青の、長身細身の王子様。

 共通しているのは、粘着じみた不思議系なところか。


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