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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
去りゆくクソメガネの姿が、嘆くナツの姿にだぶる。
――しーちゃん……。
あたしは、ナツのハル兄を思いやる心を利用して、ハル兄が元気になるためとはいえ、ナツの心を裏切っているのだろう。
おばさまの言うように、ナツがあたしを本当に好きでいてくれるのなら、あたしの行為はナツを思いきり傷つけている。
あの笑顔を曇らせたくはない。
だけど、ハル兄にも笑っていて欲しいんだ。
ナツが小さい頃からあたしを慕っていたように、あたしは小さい頃から、取り扱いが面倒臭い俺様帝王を慕ってきたのだ。
あたしとナツはハル兄に護られている。
だからハル兄の一大事に、あたしがなんとかできるのなら、あたしがなんとかしたい。それはナツも同じ思いだろう。
兄思いのナツの気持ちを汲み取り、あたしは。
それを大義名分に、それを言い訳に、あたしは――。
「シズ?」
ハル兄はあたしとクソメガネのやりとりを聞いていなかったのだろう。
手にしたウーロン茶はすでに空で、違うボーイからウィスキーのロック割りを頼んで飲んでいる。
「ウーロン茶を飲んだ意味ないじゃない」
「うるせぇな。景気づけだ」
景気よりもヤケ酒っぽく思えるのは、折角のED回復チャンスをものに出来なかったからなのか。
カランと氷が鳴る軽快な音がすると、ハル兄のグラスは空になっていた。
ハル兄はウィスキーがお好きらしい。
王道を裏切らないなぁ、このひとは。
あたしはいいよ、ウーロン茶で。おいしいもの、ウーロン茶。
「……?」
ハル兄が、ウーロン茶をちょぽちょぽ飲むあたしを、じっと見ていた。
あたしの飲み方がおかしいのかなと思ったが、どうやらそうではない。
揶揄する眼差しでも、見守る温かな眼差しでもない。
向けられているのは、獲物を狩るような肉食獣が持つ強い眼差し。
平穏な喧噪で賑わう日常空間をねじ伏せるようにして、時や場所を選ばず、突然開始されたらしい。
帝王様の狩りのお時間が――。