この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
ハル兄の復活したばかりのご自慢の息子さんは、まるで顔を見せない。
――媚薬切れだ。ここで張り切りすぎて、疲労からED逆戻りは嫌だからな。
夕子さんのクッキーがハル兄にもたらした効果はかなりのもので、その反動を気にするようなことは前にも言っていたけれど、媚薬切れという割には、あたしのお腹に、もういですかとでもいわんばかりに、硬い感触でノックするその元気良さは、消えていない気がした。
そこにちゃんといるくせに、居留守を使われる。
クッキーを食べていないテラスではあんなに入りたがっていたくせに。
EDが治ればあたしの体など、執着にも値しないんだろうか。
この夜が抜ければ、もうハル兄にとって必要がなくなったあたしは、こうして幼なじみ以上の睦まじいことはできないのだろうか。
そんな未来が無性に寂しくなって、またハル兄に抱きつけば、
――どうした?
甘ったるい声で囁きながら、あたしの耳にぬるりとした舌を這わせる。
横目で見るきらきらと光る漆黒の瞳に、ゆらゆら揺れる水面が映る。
体を熱く感じるのは、お湯のせいだろうか。
また抱き合ってキスをした。
喘ぎながらの、甘美なキスを――。
ハル兄の予言通り腰が砕けた状態のあたしは、浴槽から立ち上がれず、笑ったハル兄の逞しい二の腕に抱かれて、のぼせる寸前で浴室から撤退。
浅黒い肌に光沢のある黒いシルクのバスローブ。
濡れた髪を掻き上げながら、眉間に皺を寄せてタバコを吸う帝王は、艶めかしいフェロモンを消そうともせず、これは夜の帝王様のご降臨だ。
そんなハル兄に、甲斐甲斐しくドライヤーで髪を乾かして貰うのはなんとも誇らしげな気分となり、お返しにあたしもハル兄の髪を乾かしてあげて……そしてあたし達は眠りについた。
背を倒したゆったりとしたソファで抱き合い、夜景を見ながら――。
ハル兄の腕枕が気持ちよくて、思わず涙が零れそうになる。
なんでこんなに切なくなるんだろう。
だから言えなかったよ。
ねぇ、なんでお風呂場で1回きりで終わらすの?
ねぇ、あたし達に次はあるの?
聞きたくても、聞いてはいけない気がしたんだ。
そんな、切ない夜――。