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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 

 ハル兄の復活したばかりのご自慢の息子さんは、まるで顔を見せない。
 

――媚薬切れだ。ここで張り切りすぎて、疲労からED逆戻りは嫌だからな。


 夕子さんのクッキーがハル兄にもたらした効果はかなりのもので、その反動を気にするようなことは前にも言っていたけれど、媚薬切れという割には、あたしのお腹に、もういですかとでもいわんばかりに、硬い感触でノックするその元気良さは、消えていない気がした。


 そこにちゃんといるくせに、居留守を使われる。


 クッキーを食べていないテラスではあんなに入りたがっていたくせに。

 EDが治ればあたしの体など、執着にも値しないんだろうか。

 この夜が抜ければ、もうハル兄にとって必要がなくなったあたしは、こうして幼なじみ以上の睦まじいことはできないのだろうか。

 そんな未来が無性に寂しくなって、またハル兄に抱きつけば、


――どうした?


 甘ったるい声で囁きながら、あたしの耳にぬるりとした舌を這わせる。

 横目で見るきらきらと光る漆黒の瞳に、ゆらゆら揺れる水面が映る。


 体を熱く感じるのは、お湯のせいだろうか。


 また抱き合ってキスをした。

 喘ぎながらの、甘美なキスを――。



 ハル兄の予言通り腰が砕けた状態のあたしは、浴槽から立ち上がれず、笑ったハル兄の逞しい二の腕に抱かれて、のぼせる寸前で浴室から撤退。


 浅黒い肌に光沢のある黒いシルクのバスローブ。

 濡れた髪を掻き上げながら、眉間に皺を寄せてタバコを吸う帝王は、艶めかしいフェロモンを消そうともせず、これは夜の帝王様のご降臨だ。

 そんなハル兄に、甲斐甲斐しくドライヤーで髪を乾かして貰うのはなんとも誇らしげな気分となり、お返しにあたしもハル兄の髪を乾かしてあげて……そしてあたし達は眠りについた。


 背を倒したゆったりとしたソファで抱き合い、夜景を見ながら――。

 ハル兄の腕枕が気持ちよくて、思わず涙が零れそうになる。

 なんでこんなに切なくなるんだろう。


 だから言えなかったよ。



 ねぇ、なんでお風呂場で1回きりで終わらすの?

 ねぇ、あたし達に次はあるの?



 聞きたくても、聞いてはいけない気がしたんだ。



 そんな、切ない夜――。

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