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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
ひとつの大きなフライパンにて、3種を同時に調理していたのが祟ったらしい。
スクランブルエッグと名付けられた、真っ黒のコゲカス
ソーセージと名付けられた、木炭のような黒いもの。
ベーコンと名付けられた、真っ黒のカサカサ。
無事なのはミルクとパンだけが、これは手を加えていないからだ。
調理しない方が食べれるってなによ。
12年ぶりの料理は散々だった。
さらば、真っ黒トリオ。
別れを告げてゴミにしようとした時、横から突如出てきた皿が残骸を受ける。
「お前……一生懸命食糧になってくれたニワトリさんやブタさんに悪ぃと思わねぇのか?」
濡れた髪から雫が垂れる。
タオルとバスローブを羽織った姿のハル兄だった。
狩猟本能で餌を屠る帝王の口から出た言葉とは思われぬ、家畜に対する慈愛の情。
担々麺にステーキを口にしていたのも、酒に肉だけ口にしていたのも、まさか"お肉になってくれた牛さんに悪いから"という理由だったのだろうか。
そして――。
「……こんなに旨いのに、なに捨てようとするんだ」
真っ黒トリオを手で掴んで、ワイルドにばくばくと食べる。
「旨ぇのによ」
どう見ても散々すぎる失敗作。
それなのに紡がれる言葉は"旨い"だけ。
……眉間にはくっきりと皺を刻ませながらも。
あたしが初めて作ったカレーを食べていた時と同じだ。
おいしくないよ?
ねぇ、なんで食べるの?
「バチあたりオンナには、この馳走はやらねぇよ。お前はパンとミルクだけだ。ふっ。お前がここまで黒好きだとは知らなかったな」
黒の帝王は嬉しそうに笑う。
「なんだよそのアホ面。ああ、そうか。"あれ"がまだだったか。……シズ」
ハル兄は指先であたしをちょいちょいと呼ぶ。
反射的にそれに従って彼の前に立ったあたしに、ハル兄は――
「!?」
体を屈めて、唇に触れるキスをしてきたのだった。
「おはよう。……お姫様?」
妖艶な流し目で、にやりと笑う帝王様。
「な、ななな!!」
思わずその場にペタンと座り込んでしまった。
心臓に悪すぎる。
ねぇ、朝からなんなの、ハル兄!!
あたしはただ、感じていた。
唇にじんわりと残る、焦げた味の熱を――。