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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「ハル兄、せめて珈琲淹れる!」
置かれていたコーヒーメーカーを見つけ、その隣にあった英語だらけのパッケージの珈琲の粉を入れた。
今度はうまくいくようにと真剣に祈りながら、ぶるぶると震える手で一緒に置かれてある小さなスプーンでお粉1杯半。お水は1杯分。
せめてこれだけでも、ハル兄に悦んで貰えるものができあがりますように。
できあがった黒い液体。
色からも匂いからも、まったく味の善し悪しがわからない。
恐る恐る献上してみれば……。
「……合格」
お焦げをたいらげた帝王様は、ひどくご満悦にて珈琲を飲んだ。
「俺好みだ」
優しげな眼差しで言われる。
それは珈琲のことだとはわかってはいるんだけれど、あたしに向けられたような気がして嬉しくなってしまった勘違い女は、もっとハル兄の趣向を知りたい気分になる。
わかっているようで、あたしはハル兄の好みを知らない。
せいぜい極度の黒好きだということで。
タバコ、女、バイク、車、そしてパズルもか……?
サックスまで出来る帝王様。
後はひとより1.5倍濃いめの珈琲を飲みたがることぐらいしか。
……それしかあたしは知らない。
知ろうとはしていなかった。
あたしの知っているハル兄は、こんなに穏やかに笑うひとではなかった。
こんなに優しげにあたしを見て、キスをしてくる男ではなかった。
甘々なんてとんでもない、傍若無人ぶりだけを植え付けた鬼畜帝王。
世話をされているのかしているのかわからない間柄。
わかりにくい優しさを感じられる今、仏頂面のハル兄が笑うだけで心がきゅっとなってしまう。
キスをされるだけでかっと体が熱くなる。
これ……やばくない?
ただの幼なじみの感情、超えてない?
なにかが変わっていくのが嫌だ。
……もうなにかが変わっているの?
堂々巡りの自問自答を繰り返し、もやもやとした心をもてあます。
そんなあたしに気づかず、いまだ卓につく帝王はタバコを吸いながらスマホを弄っていた。