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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘


 キッチン直結のダイニングルームと思われる部屋。

 豪奢な白い大理石のテーブルに乗っているのは、かつて……得体の知れなかった黒黒としたものの塵が置かれた皿と珈琲とタバコとライターと灰皿。あたしの前には、菓子パンとミルク。

 王宮のようなこの部屋のよさは、まるで活かされていない。


「なぁ、シズ。なんで俺様のスマホがキッチンにあったんだ?」


「……あ、そういえばナツから電話来てたの。それに出てたから火をかけたまま放置しちゃって。ぽいとそこらへんに置いたまま忘れちゃってた……」

「ナツから……?」


 ハル兄がタバコに火を付けながら、細めた目であたしを見る。

 くっ……。

 その顔で流し目するなよ。


「うん、ごめんね勝手に出ちゃった。また電話かけるって言ってたけど、なんか悲しそうに電話切っちゃって……」

「悲しそう?」


 漆黒の瞳はどこか揺れている。


「ハル兄がお風呂だって言ったら黙って、ED治ったかと聞かれたから治ったと言っただけだったんだけど」

「………」

 ハル兄は苦しそうに目を伏せた。

 察するところがあったのだろうか。


「なにかあったの?」


 ハル兄の返答より早く、ハル兄のスマホから音が鳴った。

 ナツの時とは違う短めの音だ。


 革張りの椅子に座りながら、メロンパンをかじかじしているあたしは、風呂上がりの妙に艶めかしい空気を醸す咥えタバコの帝王様が、目を細めて現代の産物であるスマホ操作するのを見ている。

 野生児のハル兄ほど、現代科学を詰め込まれたスマホに不似合いなオトコもいないだろう。


「カタクラユサって、ナツのバイト先の専属じゃねぇか」


 突然そう言い出したから、まるでその意味がわからなかった。

 カタクラユサ?


「つーか、公式……顔載せてねぇだと? 本当にあいつ、本物か?」

「あの……それなんですか? 誰ですか?」


 するとハル兄は、本当に嫌嫌そうに顔を顰めて言った。


「お前がキスした男だ」


 不愉快そうにじとりとした目を寄越したハル兄。

 片倉遊佐とはアダルトナツのことだったらしい。
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