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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 
 確かに、後続者がいない。


「ん……。また入っちゃったんだ。なんでも頑固らしくて」


 謎めいた言葉を吐きながら、さらに眉尻が下がるナツ。


「入ったってどこ?」

「ん……。それが……」

「あ、見て。こっちにウェイターさんに連れられて誰か来る。その警察官じゃない?」

「あ、そう。あのひとだよ、私服警官」


 タバコを吸い始めながら、ウィスキーの入ったグラスを傾けてそちらを見たハル兄。だがその目は訝しげに細められ、タバコをぽろりと指の間から落とした。


「あ、あれなの?」

「そうなんだ、しーちゃん」

「本当に、あれなのか?」

「そう、本当にあれなんだよ波瑠兄」


 やってきたのは、爽やかな若草色の着物姿の男。

 見事に裾を捌いて、草履姿でやってくる。

 今ドキの警察官は、着物姿なのか。 


 あれ……どこかで?


 ナツにも通じる優雅な物腰。

 雅な情趣を纏いながら現れたその顔も、実に上品で美しく。



 やっぱり、見覚えが……?


 妙な既視感を覚えたあたし。



「ああ、佐伯さん、お待たせしました」

「……今度は大丈夫でした?」

「それが……頑固なもので」


 着物警察官の表情は暗い。


「そうですか。何十件と寄って頑張ってらしたのに」


 同時にナツの顔も翳る。


 なんだ、なにが"頑固"なんだ?

 何十件?



「もしかして、お前……便秘じゃねぇか?」


 そんな失礼なことを言い出すハル兄に、あたしの記憶はさらに刺激される。あり得ないと言い切れない、このもやもやはなんだ?



「お前……"ウサギ"だろう!? 『飛龍』特攻隊長の!!」

「……っ!? あ!? お前……佐伯って……あの総長のハルか!?」


 あ、このひと……っ!!


「コンビニで、あたしを襲ってきた白衣集団に、もう少しのお通じを邪魔されて暴れた、肉弾戦上等の着物男!!」


 ああ、だから"その場に居合わせた警官"なんだ……。

 もしかして、あの時邪魔されたためにまだ出ないとか?


 そしてふと思った。


 店内のモノ投付けて応戦してくれた委員長、目撃者が警官だということで、情状酌量で……少しでも責任軽くなればいいな、と。

 落ち着いたらお礼にいかなきゃ。




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