この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
着物姿の男の名は、宇佐木隼人(うさぎはやと)。
ハル兄と同い年の高校の同級生らしい。
現職、警視庁交通安全教育課に赴任してきたばかりの警部補、しかし前身は元『飛龍』特攻隊長。
緊急時には昔取った杵柄とばかりに、拳ひとつで敵を叩きのめし、白バイにも乗って追跡もするらしい。……着物で。
……世の中、人選を色々間違っている。
医者も警官も難関私大を現役で合格した大学生も、外見や肩書きだけで信用してはいけない。
12年後の日本は、凄まじい乱れ具合だ。
元総長と元特攻隊コンビは向かい側に座って盛り上がり、完全にあたしの事情聴取など忘れ去られている。
「お前、呉服屋継いだんじゃなかったのかよ!?」
「今ドキ、呉服屋なんて売れねぇからさ、歩く広告塔として地域巡りできる暇な職業ったら、サツぐらいなもんだろ。これがアタリでさ、実家の呉服屋繁盛。で異色警察官として俺、雑誌にも紹介されてさ。俺、天職かもしんねぇ。裏道や裏世界知ってるから検挙率はあがるし。いきたい時に便所もいけるし」
正義感や、やんちゃの懺悔から警官になったわけではなく、私利私欲を満たせるからという理由で天職だと言えるあたり、さすがハル兄にタメ口きける不遜な相手だ。
特攻隊長だから裏道を知っていたとしても、裏世界まで知るとは恐ろしい。それで交通安全教育課配属とは、世も末だ。
一体どこに適性があるのだろう。
「しっかしウサギ、お前まだ便秘なのかよ。体なまってるんじゃねぇか!?」
ハル兄は嬉しそうに、着物姿の……通称"ウサギ"の肩を手で叩く。
彼の所構わずの便秘癖は、昔から有名だったらしい。
「うるせぇな。俺の腹筋はぱっくり10個にわかれてるよ!! 腹下しやすいお前に言われたくねぇよっ!!」
まるで優雅さのない言葉遣いで、ウサギも嬉しそうにハル兄を叩き返す。