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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「そうだナツ、お前片倉遊佐って知っているか?」
ハル兄がナツに聞いた。
「UK? 僕がモデルしてる会社のデザイナーさんのこと?」
その名前は、ナツの知る処だったらしい。
「お前はそいつに会ったことがあるか?」
「いや、ないよ? ブランド立ち上げて五周年の式典が近く開催されるらしいんだけど、そこに専属モデルとしての出席を言われているから、もしかしてそこで会えるかもしれない。だけど珍しいね、ハル兄がファッションの話題振ってくるなんて」
「そいつが、シズが淫魔だということを知っていたんだ。そしてキスだけで淫魔の発情を押さえ込んだ。精液を胎内に入れていない、飢餓の状態のシズを。ただのキスだけで」
みるみるうちに微笑んでいたナツの優しい顔が強ばっていく。
「なにそれ。しーちゃんを救える男は別にいるってこと?」
「そこまでは想定外だった。俺達だけが……って思っていたからな。でだ、そいつが言うには、そうした淫魔の秘密が書かれた綴り本があるらしい。歴代の淫魔が書いた随筆集……日記のようなものらしいが……」
「なんでそのひと、そんな事情通なの? だけど波瑠兄。もしそれをしーちゃんのお母さんも書いていたとしたら……」
「ああ。俺もその可能性を考えている。……シズの家に侵入し、そしてシズを拉致しようとした白衣集団は、その本を探しているんじゃねぇかと」
なるほど!!
だけど白衣集団には悪いけれど、12年前既に、ママが所持していた書物類は皆売っ払ってしまった。段ボール箱にすべて詰めて、中古本買い取り店に郵送して、二束三文で。
買い取れない本もあると言われたけれど、廃棄処理をお願いしたあたし。
自宅に残留しているママの遺品にそれらしき綴り本があった記憶がなければ、ママが巧妙に隠していたか、あたしがそれを中古本と間違えて売ったのか、どちらかが真実ということになるだろう。
「それはどんな本になっているの?」
「赤い表紙の綴り冊子のようだが……」
するとナツは腕組みをした後、首を傾げながらあたしを見た。
「ねぇしーちゃん。大都大学の図書館の書庫で……しーちゃんがやけに気にしていて整頓した本、そんなものじゃなかった?」