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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「あ、そう言えば……」
書庫で見かけた、赤い表紙の綴りもの――。
書庫での卑猥なイチャイチャに至らせ、委員長二度目の遭遇契機ともなった、棚から飛び出ていた本はその類いのものだった。
あの表紙のタイトルは、ぐにゃぐにゃな筆文字過ぎて、あたしには読めなかったけれど。
「だけど出来すぎだよっ!! なんでそんなものが大学の図書館に、しかも偶然でもあたしが見つけられるの? ご都合主義もいいとこで……」
「淫魔の血……かもよ、しーちゃん」
口もとは弧を描いているのに、ナツの目は笑っていない。
「僕にはね、しーちゃんがわざわざ方向変更して整頓したくなるほど、その本が特別おかしく、飛び出していたようには思えなかったんだ」
あたしは思い出す。古びた背表紙が並ぶ書棚に、見つけてくれといわんばかりに飛び出していたそれ。
あたしの目を引いて足を止めさせるほど、あまりにも異質すぎていたんだ。わざとらしいまでに――。
ナツは、気にならなかったの?
それは別室でイチャイチャしたかったからではなく?
……気になったのは、あたし……だけ?
「だけどね、ナツ。仮にあの時の本がその本だったとしても、なんで個人の日記……みたいなものが、大学の重要文献が集まっている書庫にあるの?
歴史的価値あれば、売った中古書店から巡り巡って……と話はわかるけれど、内容は淫魔の随想録でしょう? あたし教育機関に寄贈した覚えもないし、誰かがどこかであの筆文字の内容を解したとするのなら、あまりにファンタジーすぎて場違いなんだけど。あの棚、しかも国文学だったよ?」
ハル兄がタバコをふかしながら言った。
「……正式なルートを通らずして、書庫にあった可能性もある」
「……誰かが故意的に隠した、ということ?」
目を剣呑に細めたナツの質問に、ハル兄は無言で頷いた。