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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「はぁい、しーちゃん……チーズ!!」
その時、ナツが突然スマホを向けてくる。
あまりに突然すぎて、だけど即座に反応したあたしの体は、意志とは無関係に勝手にピースサインを作り笑顔を向けてしまう。
そしてばっちり……
「あ……」
丁度注いだ水をあたしの場所に戻したウェイターさんと、ツーショットになってしまった。
「ごめんね……波瑠兄」
苦笑するナツの視線を追えば、ハル兄も一緒に映ろうとしていたらしい。
しかしハル兄の前にウェイターさんが邪魔するようにして映ってしまい、多分ハル兄は……よくて背後霊だ。
……この不機嫌そうな顔を見れば、間違いなく怨霊だ。
そして、言葉を発しない怨霊の睨みという呪いをかけられて、さすがに無表情のウェイターさんも冷や汗混じりに、すみませんとひと言謝ってそそくさと逃げるようにして去る。
去ればハル兄の顔も少し緩和して、
「間違いねぇな。あれはホルムアルデヒドだな」
不可思議な呪文をぼそり。
「なにそれ?」
代わりにスマホを操作しながら、ナツが答える。
「ホルマリンってわかる、しーちゃん」
「うん、死体を漬けておく液でしょう? ホラーでよく出てくる」
「それがあの男からしたっていうこと」
……つまり?
「ええええ!? だったらこのレストランは、死体を……ふがっ!?」
あたしの口を手で塞いだ上に、頭にハル兄のチョップが飛んで来た。
「時と場合と環境を考えろ。言っていい発言と悪い発言がある!」
「な、なにを……っ!? ハル兄こそ、ウェイターさんの目の前で……」
なんだか理不尽だ!!
あたしの方が非常識に聞こえるじゃないか!!
「本当のウェイターなら言わねぇよ、んなこと」
「は? 嘘でも本当でも平気で言うでしょう、ハル兄なら」
「俺様を誰だと思っている。それに焦点が違うだろ」
帝王様から容赦なくチョップが落とされた。
あたし、頭蓋骨歪んできてないだろうか。
……って。
「あのウェイター、本物じゃないの!?」
ようやく、あたしはハル兄の言葉の"焦点"に気づいたのだった。