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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 

 ハル兄は笑いながら、テーブルの下、またこっそりとあたしの手を握る。

 それは卑猥な動きなどではなく、切なくなる程の惜別の動きに思えた。

 離れがたいというように、どこか不安げなその動きにあたしが視線を向けた途端、ハル兄は手を離してすくりと立ち上がった。


「医者とは因果な職業だが……俺しか出来ねぇこともある。ここはそれに満足して、俺様の可愛い弟の健闘を見守ろう」

「波瑠兄……」


「だが無理するなよ、ナツ。お前が消えて喜ぶ奴なんぞ、誰もいねぇ」


「……ありがとう」


 そう釘さしたということは、ハル兄はまさかナツとあたしを?


――静流ちゃんは、奈都を選ぶことに。


 ずきん。

 胸が痛んだ。


 すごく胸が痛くて苦しい。

 昨日のことが思い浮かんでくる。


 夢にはしたくないとあたしは泣いた。

 ハル兄をオトコとして好きだと勘違いしてしまった。


 それをハル兄は笑わず、優しく甘くあたしを抱いた。



――お前が永遠に抱かれたい、特別なオトコの名は"波瑠"。

――俺が永遠に抱きたい特別なオンナは"静流"、お前ひとりだ。


 意識しないようにしていたけれど、いざ思い出せば心が震える。

 寝物語を本気にするなど、愚の骨頂だろうに。

 それでも、環境が魅せた夢にしたくないあたしがいる。



――お前は俺に揺れている。


 多分そうなんだ。


 ハル兄に抱かれたことを引き摺りたいと思うあたしは、きっとハル兄をオトコとして意識して、揺れているんだ。


 ……揺れている?

 なにとの間に?

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