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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「しーちゃん、しーちゃん……っ」
譫言のようにあたしの名前を呼び、そして体を捻るようにしてあたしを抱きしめてきたナツ。
「僕以外のもとで……綺麗になんてならないで」
背中に回されたナツの力は強い。
「僕以外の男の匂いをつけないで」
「ナツ……?」
頭にお花を咲かせているような、あのほのぼのとした幸せそうな様子はなく、見ているだけで心がぎゅっと絞られそうな不安げな悲壮感に、息苦しくなる。
「しーちゃん……」
体を離したナツは、薄く膜の張った悲しげな瞳であたしを見た。
「しーちゃん……好きなんだ」
その瞳が苦しげに細められる。
「好き」
ほろりとナツの瞳から涙が零れた。
綺麗な綺麗な王子様。
流れた雫は、彼の輪郭を掠めてしまうほどに儚げで。
……惹き込まれる。
「凄く好き」
時が止ったような静謐な空間には誰もおらず、泣き笑いしている王子様がただ……あたしに訴える。
「しーちゃん、僕を見ていて」
子供のような独占欲を見せながら、大人の男の熱を帯びた瞳。
「僕だけを見つめていて。
……波瑠兄を選ばないで」
どきん。
まるでハル兄に心揺れているあたしを見透かしたかのようなナツの発言に、あたしの心臓は大きく震えた。
「あたしは……」
ナツの瞳がビー玉のように茶色く透き通って見える反面、不純物に澱んでどす黒く染まって見える。
ナツの感情のすべてを、その瞳からは推し量れない。
ただ彼の表情からそれを想像するのみだ。