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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 
 
 悲しみと嫉妬と苛立ち、そして独占欲。

 それはナツが、あたしに彼氏が出来る度に向けていた表情と相違ない。


 それでもナツは、幼い時から泣き喚くような駄々は見せなかった。

 あたしに苛立ちをぶつけない。我が儘を言わない。

 子供としては不相応なまでに、静かに堪え忍ぶ。

 彼氏が出来る前にはあれほど"好き"ばかり口にして、ぽっこりお腹を押しつけるようにしてぐいぐいとあたしに懐いていたというのに。

 あたしが別の男を選んだ途端、諦観のように唇を噛みしめながら、ただひたすら声にならない涙を零し、あたしにその泣き顔で笑って見せるのだ。

 そしてあたしの手をきゅっとただ握る。

 そしてナツが口にしない言葉は、その手から伝わってきた。


 "僕のことを忘れないで"

 "僕はここにいるよ"


 それがあまりにいじらしく可哀想で、居たたまれなかった。

 同時にナツを裏切っているかのような罪悪感を感じて、ナツを見る度に息苦しくなっていた。


 そう――。

 別にあたしはナツの恋人でもないというのに、それでもナツに不可解な罪悪感を感じればこそ、あたしは昔からナツが苦手で、煩わしく……疎ましくすら思えていたのだ。


 そして今、同じような顔で堪え忍ぶように笑うナツがいる。

 だから言わずにはいられない。


「あたしは、誰も選んでいないよ?」


 揺れてはいるが、別にハル兄と恋人になったわけではない。

 なによりハル兄の気持ちすら、確かめてもいないというのに。

 あたし自身、これからハル兄とどうこうしたいという明確なビジョンもないのだ。


「……波瑠兄に抱かれたしーちゃんは……すごく綺麗。雰囲気が前と違う」


 また、はらりと涙が零れ落ちた。


 儚げなナツ――。

 消え入りそうなまでに傷ついた顔をしているナツ――。
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