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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「レストランで元気がなかったのは……」
「わかっているんだ。僕は波瑠兄も大好きで、波瑠兄がすごく元気になったのは本当に嬉しいんだ。だけど……なんで元気になったのか、なんでしーちゃんが綺麗になったのか。それ思ったら……。ごめん……こんな女々しくて子供っぽい醜態、さらすつもりはなかったんだけど……ごめん。もっと大人っぽく、もっと格好よくいきたいのに……ごめん。ちょっと深呼吸するから」
はらり。
また、わざと笑顔を作るナツの目から涙が零れる。
あたしは思わず体を伸ばしてナツを引き寄せると、その涙を唇で掬った。
あたしはこの子の涙に弱い。
本当に弱すぎる。
12年後、さらに弱くなったように思える。
ナツの傷心を、どうにかしていやしてやりたくて仕方が無くなる。
「あたし、初めてエステに行ったの。ハル兄の友達の婚約者さんと。髪も整えたしお肌艶々になったし。そりゃあ雰囲気も変わるよ?」
「……波瑠兄のためにエステ?」
「そういうわけじゃない。夕子さんが出席予定だったセレブのカジノパーティーに、ハル兄と代理で出ることになったから」
「………」
「ナツ?」
不意に目を伏せて黙り込んでしまったナツに、声をかけてみる。
すると丁度ナツが顔を上げ、あたし達は至近距離で見つめ合う。
ナツがあたしの頬を手で触った。
「しーちゃん……」
長い睫毛に縁取られた、涙で潤むアーモンド型の目。
久しぶりに見るナツのその端麗な顔は元気がないというのに……その眼差しだけは強い光と熱を放っている。
ナツの双眸が強く訴えてくる。
彼ですらもてあまし、彼の身を焦がしているようなその熱情を――。
あたしは佐伯母に言った。
ナツの想いは、執着という名の刷り込みのようなもので、恋愛感情ではないのではないかと。
だけど――。
「好きだ」
だけどこの切実な目を見たら、撤回せざるをえない。
「僕だって、昔からしーちゃんが好き」
絡み合い、逃れられない視線。
蜜をまぶしたようなナツの瞳に、体が熱くなる。