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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 
 
「しーちゃんを、僕の色に染めたい。僕の匂いに包みたい」 


 近づく唇。


 だがナツは、あたしの唇を親指でなぞるだけ。

 キスをしたいというような熱い息を零しているのに……その指でもどかしく唇を触るのは、あたしの気持ちを確かめようとでもしているかのようだ。


 あたしも今、ナツと同じように……ナツの唇を求めているのかどうか。

 あたしの視線が、ナツだけに向けられているのかどうか。


 いつもは変態的に強引に進めても、あたしの心を求める姿はいつも躊躇があって頼りなげで。

 そこにあたしの心はきゅんとなってしまうんだ。

 大事にされていると思えばこそ、あたしもナツの望みを叶えたいから。

 ……たとえ、現実……誰に揺れていようとも。

 それを掻き消すくらいに、ナツの存在もあたしを揺らすから。


「ナツ……ちゅうしたい」


 そう言うと、ナツの顔が戸惑い……そして緩んだ。

 悲しみから一転、その微笑みは本当に嬉しそうで。


 だがそんな眼差しから、すぐに男の艶めいたものへと変わる。

 その一瞬の変化にぞくりとする。


「ん……っ」


 触れあった唇から、びりびりとした快感が拡がった。

 何度も何度も角度を変え、ナツの冷たい唇があたしの唇に触れる。


 触れる度に絆されて火を着けられるあたしの心。


――ねぇ、静流ちゃん。頭はよくないことも色々考えすぎるけれど……体というものは正直なのよ。心にね。


 薄く開いた唇から、ナツの舌が忍び込む。



「しーちゃ……ん……」



 あたしの後頭部に両手を添えて、悩ましげな声をたててナツの繊細な舌があたしの口腔内に蠢く。


 それはハル兄のような"俺に染まれ"というような圧倒的な存在感はないものの、逆にあたしに染まりたいかのようにあたしに合わせて、興奮を引き揚げていく――。


 引き摺られていくのではなく、一緒に高みに駆け上ろうとするような…………そんな気遣いを感じるものだった。
 
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