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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 
 





 ナツが運転する赤いフェラーリは、環七通りを走っている。

 サバンナの帝王が赤い闘牛を運転する様は、ナツの足下で縮こまっていたあたしにはわからなかったけれど、あの時のナツの興奮度合いからはサマになっていたのだろう。性格さておき、外見だけではスペックの高いハル兄の、あの奇抜にも思える超高級な乗り物を運転する姿がおかしいはずはない。


 それと正反対の美貌を持つナツ。

 所有者は依然野生の帝王で、上品さよりも男らしさが勝って見えるこのフェラーリは、「458スパイダー」とかいう名前らしく、赤い外装なのに中は真っ黒。ハンドルの真ん中に黄色い跳ね馬がいる。

 オープンカーにも出来るらしく、興味津々のあたしの至ってのお願いでナツがルーフを開けてくれたのだが、ホテルの外に出れば小雨が降っており、あえなく断念。


 フェラーリの外装は流麗な曲線を描いていて女体のようであり、そこらへんはナツの雰囲気に似てはいるけれど、運転席は真っ黒で実に男らしい。

 さすがはハル兄が選ぶ車だとなにか納得してしまったけれど、そんな男らしい色すら、夢の王子様は自分のものにしてしまうあたり、やはりどんな服をも着こなせる現役モデル。

 車の内装ひとつで、凜々しく輝くナツに惚れ惚れしてしまう。

 まるでどこぞの御曹司だ。

 そんな王子様の運転の横に、この愚民ごときが乗るのは実におこがましく、どうも落ち着いて乗っていられない。


 ああ、ほら。信号で引っかかる度に、またあたしを見てる……。


「ごめんね、しーちゃん。また見られちゃった」

「なんでナツが謝るの? それはあたしが……」

「なんでしーちゃん? 僕がこんな凄い車を乗りこなせないから、皆奇異な目で見ているんだ。本当はさ、信号変わったらブォッて飛び出したいけど、フェラーリ凄い音がするんだよ。あまり派手な音出したくないから、そろりそろりと運転始めるから……」


 そう言われてみれば、ナツは安全運転だ。

 ハル兄のようにかっ飛ばさず、シートベルトをきっちり締めて姿勢を正して、あまり余裕がない。

 車間距離がかなりのもので、ゆっくりゆっくり環七を進んでいる。

 ……あ、今軽自動車に抜かれた……。

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