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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「そう言えばナツって、運転免許取るのに苦労したんだっけ」
……あ、チャリにも抜かれた。
もしかして今、環状七号線この車を先頭に渋滞しているかもしれない。
「うん。仮免と本試験落ちまくった。筆記はいいんだけど実技がね……。人生初の連続落第に挫折しかけたよ」
……成績2位、現役大都大学合格、モデルのバイトから本採用。
すべて一発クリアの挫折知らずが、なぜに運転技術に一歩及ばなかったのだろう。
この子の運動神経や反射神経が悪いとは、到底思えないのだけれど。
「なんかね……突然車とかひとが出てくるから、速度を出せないんだ。ようやく頑張って法定速度まで出せるようになった」
……適性がないのかな。そうは見えないのだけれど。
ナツ自身、ハル兄の速度には喜ぶほど、速度恐怖症ってものでもなさそうだし……。本当に不思議な子……。
だけどあたしもゆっくり運転がいい。
あんな爆走されたら、生きた心地しないもの。
爆走のための高級スポーツカーなのだろうけれど、どうせ乗るのなら人様に迷惑をかけずに、周りの景色を楽しんで移動したい。
……あたしは軽自動車……いやいや、チャリで十分な庶民なのだ。
真剣な眼差しで運転するナツが、すごく新鮮で見惚れてしまう。
つけまつげしているような長い睫毛が羨ましい。
「もぅ、あんまり僕を見ないでよ。それじゃなくても、念願叶ってしーちゃんを助手席に乗せることが出来て、嬉しい以上に緊張しているんだから」
ぷっくりとナツのほっぺが膨らんだ。
「ふふふ、外の景色見ているより、ナツを見ている方がいい」
ちょんちょんと膨らんだほっぺを指で押して見る。
「もぅ、しーちゃんっ!! あんまり僕で遊んでいると、人に見られて恥ずかしいお仕置きしちゃうよ!?」
「へ?」
「……運転に余裕なくても、僕の指はしーちゃんの体を覚えている。顔は真っ正面に向けてても、右手ひとつでどう操作すればどういう風にしーちゃんが動くのかはわかるよ?」
ちろりと寄越されたのは、艶めいた流し目。
「人からよく見られるように、ゆっくりゆっくり走ってあげるけど?」
「失礼致しましたっ!!」
変態王子様だということを忘れていた。
だけどまぁ……それだけの元気が戻ったのなら嬉しい。