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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
駐車場内でキスをした時――。
――これ以上は駄目。ここは波瑠兄の領域だから。
優しく舌を絡め合わせた後、ナツはその先に進もうとはせず、それだけに留めた。だけど名残惜しそうにあたしの両頬を手で挟み……額をこつんと合わせて言った。
――波瑠兄の領域に僕は踏み込むつもりはない。波瑠兄の残像がある場所で、しーちゃんは愛せない。
頬に添えた手をもぞもぞと動かしながら、ナツは微笑んで言った。
――しーちゃん。今日のお泊まり期待しててね。
儚げで爽やかで。
ナツ独特の甘やかな笑顔で紡がれた、その言葉。
"お泊まり"。
あたしは流浪の身の上に、警察官らしからぬ警察官のお世話になってことを思えば、ナツにどこへ連れられてもいいけれど。
……期待ってなに?
凄いいい場所ってこと?
――僕ね、今日から合宿なんだ。で、サクラとこれから大学で会うんだけれど……ふふ。ふふふ。しーちゃんと一緒なら耐えられそう。ふふふ……。
謎の"ふふふ"。
もうクソメガネには会いたくはないけれど、確か奴も言っていた、ナツの合宿。確か……早漏対策の。
耐えられるってなにをするのだろう?
――実はね、しーちゃんに内緒で……お泊まりの場所も決まってるんだ。それを"受け取り"にも大学行かなきゃ。キャンセル待ちしてたんだけど、空きが出たって朝連絡受けて。しかも偶然とはいえ、よかったな……"あそこ"は合宿場に近いし。合宿の成果を存分に発揮できるように、期待しててね!
………。
え、期待……って、合宿効果の期待?
――僕だって……もう、このままずるずるは嫌なんだ。だから僕も、波瑠兄と同じ土俵に上がらせて貰う。
そしてナツは、あたしの手を握ったまま……シフトレバーを引いて、運転を始めたのだった。
同じ土俵って……ねぇ、ナツ。
ちょっとナツ……?
今夜、早漏回復して……しちゃおうということですか?
待て待て待て。
あたしが淫魔だということを忘れていませんか!?
合宿で早漏治るもんですか!?
クソメガネ、ナツになに唆(そそのか)したの!?
――頑張るぞ~!!
やる気を見せて元気を回復したナツの横で、あたしはクソメガネの得体の知れない魔の手から、ナツを護ろうと決心して、今に至る。