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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「ごめんね、驚かせちゃった? 気分悪い? 車酔いしちゃった?」
綺麗なナツのお顔が悲哀に歪んでいる。
本当にこの子の"哀"の表情は、美しくて儚げで……心が締め付けられる。
「あたの方こそ心配させてごめん。酔ってないよ、あたしは元気。ちょっとぼぅっとしちゃっただけ。ええと、ここは……」
車は停車しており、場所は道脇ではなく……どこかの敷地内。
周囲に高級そうな車が停まっているあたり、駐車スペースなのだろう。
「大都大学中央棟の来賓客用の裏駐車場。さすがにこの車で学生と同じ駐車場は停められないからね、警備員さんに許可貰った。それにせっかくしーちゃんといるのに、変な野次馬に邪魔されたくないし。ランボルギーニで堂々乗り付けた波瑠兄ほどの騒ぎにはならないとはいえ」
……ああ、帝王様が弟君をお迎えに来校された時は、凄かった。
ただあの野次馬が群がったのは、珍しい高級車への興味と言うよりは、それを運転する男の興味に向けられていたと思う。
このフェラーリの凄さはわからないけれど、フェラーリという車が高級だと言うことは、車に興味ない一般庶民のあたしでさえ知るところ。
そこから降り立つのが、現役モデルのナツということ時点で……ナツは今まで以上にもてはやされ、凄まじい黄色い絶叫や失神者が続出するだろう。
ただ願わくば。
高級車持ちだとかいう、どうでもいいオプションでナツのステータスを勝手に引き揚げないで貰いたい。
ナツの魅力はそんなところではない。
たとえ人前で無愛想で笑顔を見せなくとも、そこをすり抜けた"素"の部分を見ようとして欲しい。
兄上のように、自由気儘に凄まじいオプションを好んで身につけようと、それに勝る"素"の部分を他人に見せつけて屈服させるそんな自己顕示欲は、ナツにはない。
だが慎ましいように見えて、ナツだって彼なりの強い自己主張がある。
帝王を羨望視していても、追従や模倣するのではない……、彼特有の輝く個性がある。
だから願わくば――。
ナツしか持てないその個性に、皆の目が向くことを。