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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
「だけど、しーちゃんに電話かけても通話中で。誰と電話してるかとイライラしている最中、波瑠兄から電話来て。しーちゃんが取り乱しているけれど、サクラとなにかあったのか、なんでその場に僕がいないのか、とにかくしーちゃんと連絡つかないから、本人から詳細を聞いて電話しろって怒られたんだ」
悲哀に満ちたナツの声が響く。
「慌てて中央棟に戻ればしーちゃんは消えてて。なにがあったのかと焦る一方で、しーちゃんの通話中の相手は波瑠兄で、取り乱すようなことを、僕ではなく波瑠兄に話すんだと思ったら。そして僕を介さなくてもサクラと会っているのかと思ったら……僕が妬いちゃって。
しーちゃんは僕が嫌になって、いなくなった気がして。
今思えば、しーちゃんとサクラを疑う前に、サクラに電話して事実確認すればよかったよね。サクラに電話すること、すっかり頭から抜けてて。多分、波瑠兄もそうだろうけど」
ナツの独白の後、沈黙が流れた。
「つまり。こじれさせた発端は、煽った俺だ。すまん、ナツ」
クソメガネは、頭を下げた。
「この人と会ったのは偶然で、連絡先も互いに知らないし、誤解されるようなことはまるでない。それだけは信じて欲しい。お前に心変わりされたと死にそうになってるこの人の愚痴を聞きながら、口喧嘩していただけだ」
あたしも、クソメガネに追従するようにうんうんと頷いた。
「やましいことはなにもない」
ふたり揃って真剣に訴えると、ナツがこちらを見て、いつものように笑ってくれた。
「ん……わかった。僕……焦っていたから、大人げなかった。疑ってごめんね、ふたりとも」
ナツも綺麗にお辞儀をした。
「ナツ、俺……書庫でその本探しに行ってくる。だから……仲直りしろよ。折角、人を追い払ったのなら……合宿前の景気づけに。これ……早いけどプレゼント」
クソメガネがポケットから取り出したのは、なにか小さいもの。
それを片手で手にしたナツの顔が赤くなる。
「え、なになに?」
「駄目、しーちゃんは後で」
ナツがそれをポケットしまいこんでしまう。
「30分、だ。電話かけるから、出ろよ。そして波瑠さんには俺から電話しておく。俺の非礼を詫びたいから」
そして――。
医務室には、あたしとナツ、ふたりだけが取り残された。