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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
しーんと静まり返る医務室。
「……椅子にでもどうぞお座り下さい」
「あ、ありがとうございます」
ナツが勧めた回転椅子に座ると、真向かいにやはり回転椅子に座ったナツがきた。
だがナツは、強く握った手の拳を太腿においたまま、頭を上げようとしない。
流れる沈黙。
やがてナツがそのままの姿勢で、か細い声音で言った。
「お茶……でも飲みますか?」
「いえいえ、どうぞお構いなく……」
なんで丁寧語なんだろう。
おかげであたしもつられて、他人行儀な丁寧語だ。
再び流れる沈黙。
互いの膝小僧が触れるか触れないかの至近距離での、お見合い状態。
しかしナツの頭は項垂れたまま、一向にあたしと視線が合わない。
高身長のくせに、身を縮こまらせている様は、まるで怯えるチワワのように小さく思える。
「………」
「………」
……会話がない。
ナツの笑顔がなく、ナツはひとり緊張している。
だからあたしまで緊張する。
これはあたしと話したくないジェスチャーなんだろうか。
和解出来ていなかったのだろうか。
冷却時間が必要……?
そろそろと遠ざかろうとすれば、ばっとナツの手が伸び、あたしの手を掴んで椅子ごと同じ位置に戻した。
「………」
「………」
やがてナツは、消え入りそうな声で言った。
「……僕を怒って下さい」
「え?」
「しーちゃんを妬かそうと画策し、駆け引きに失敗した挙げ句、しーちゃんやサクラに八つ当たりしてあんな放送かけてここに呼び出した愚かな僕を、思う存分……叩きのめして下さい」
そしてナツは俯いたまま、あたしの手をきゅっと握った。
「だけど……僕を嫌わないで下さい……」
嗚咽混じりの声。
「……愛想尽かして……離れていかないでください。
――……お願いします」