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目が覚めたら。
第4章 鬼畜帝王は×××でした。
つきっきりのナツがいないせいで、部屋が静かだ。
奴の変態被害に遭わない安堵よりも、物寂しさが勝るのは、ここ数日検査による貧血で不安定な体調と、トイレ以外の外出禁止によるストレスが溜まっているせいだからだろう。
ハル兄は頻繁に部屋にはくるが、大概が採血やら食事運搬やら仕事が主流で、世間話だけにやってくることはあまりなく、だからハル兄の靴音を聞いただけで退屈なあたしは悦んでしまうという異常事態。
これならまるで恋する乙女だ。
貧血が必要以上に、あたしを心細くさせているのかもしれない。
やがて検査終了報告を兼ねてハル兄が、検査を頑張ったご褒美だと、コンビニから雑誌を買ってきてくれた。
昔は500円のお小遣いしかないあたしにたかり、アイスと缶ビールを驕らせたハル兄。残金がぴったり0円になったのを見ると、流石俺様だと高笑いしてすべてあたしの前でひとり平らげた鬼畜帝王。
思い出せばあの時は、バレンタインデーの前日。
片思いしていたクラスの男の子にあげるチョコがどれがいいのかと、年上お兄様のハル兄に相談したら、俺が選んでやるから金を払えと言われ、ついていった矢先のことだった。
勿論当日チョコは渡せず、彼にチョコを渡した女の子といい仲になった彼を見て、どれほど涙を流したか。
吹雪いていたのにアイスってなによ! 寒さに震えて唇の色変えてまで、あの時食べなきゃいけなかったものかよ!
こいつには相談事はできぬ。むしろそれを逆手に酷い目に合わされる。……だからハル兄には意地でも彼氏を紹介しなかった過去。
しかし消えてしまう彼氏に動揺し、あたしが頼ったのはハル兄だった。
やはり昔からあたしの中でハル兄の存在はでかい。悪い印象が心に占める割合が9割以上とはいえ、残りが0では無いのは……ぶれずにある"傍若無人"ぶりから垣間見える頼もしさに、不安定ですぐに揺れるあたしには、どこか心強く思えて安心できるのだ。だから、残念感もまた大きかった。
だが、12年も経った今、ハル兄の鬼畜ぶりはそれなりに落ち着きを見せているようだ。少しはひとを思いやってくれる立派なお医者さんになったんだ。
ここはありがたく、彼の差し入れをちょうだいしよう……。