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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 


 だから――。


「ふたりから間接キス、いただいちゃいました」


 すぐに唇を離したナツが、どんなにいつも以上に穏やかに笑おうとしていても、そこに無理があることがわかってしまう。



 ……多分モモちゃんも気づいている。

 笑いを作るナツの瞳に涙の膜が張られていることを。


「これで皆仲良く、AAA(トリプルA)。サクラと、しーちゃんと、僕の三人。もぅ、僕だけ除け者はやめてよね」


 これがきっとナツに出来る精一杯の強がりなんだ。

 大切な存在ふたりが内緒でキス。

 たとえ偶発的な事故だろうと、隠されようとしていたナツにとっては"裏切り"で、あたし達をそう扱わないようにするためには、ナツ自身が"聞き分けいい"態度にならねばなかったのか。

 痛み分け(?)のようにキスを共有することで、疎外されたくないと主張する。その……涙。


 モモちゃんとナツは、互いが認め合う"心友"なんだ。

 だからこそ――。


 ああ、どうすればいい?

 どうすればナツに安心させられる?


「うふふふ。ごちそうさまでした」


 その時ほろりと、ナツの目から涙が伝い落ちた。


「あ、あれ……?」

「ナツ……っ」


 涙が零れたことすら笑って誤魔化そうとしたナツに、あたしは耐えきれずにナツに飛びつき、首筋に両手を回してその唇にまたキスをした。


 塩辛いナツの唇。

 雫が零れ落ちないようにあたしの唇で掬い、やはり震えているナツの唇を舌でこじ開けて……、彼の荒れ立つ心を宥めるようにゆっくりと愛撫する。


 逃げるナツの舌。

 疑心暗鬼。どんなに余裕めいていても傷ついたナツの心は今、逃げようとしていて。


 戻ってこいとあたしは舌を絡めた。

 
 大丈夫だから。


 あたしもモモちゃんも、ナツから離れない。

 あたし達はナツを裏切っていない。



 モモちゃんの視線が不自然にそれた気配がした。


 そして響く足音。

 ドアが閉まる音――。


 気を利かせてくれたのだろう。

 
 この方法が正しいのかどうかわからない。

 だけど言葉に出せないのなら、こうするしかない。


 今、どんな言葉もナツには裏目に出てしまうのであるのなら、こうして身体で伝えるしかないのだ。

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