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目が覚めたら。
第9章 変態王子様の奮闘
 


「ん……ナツ、んんぅっ……」


 ナツの反応を窺いながら、ゆっくりぎこちなく動かしていくあたしの舌。

 いつもナツとのキスは受け身で、ナツによって無意識に導かれているあたしにとっては、一生懸命心を込めて舌を絡めさせることが、あたしに出来る精一杯。


 もっと濃厚なものを体感しているくせに、こんなへたくそなものでしか返せないのは口惜しい。


 もしかして気分を逆撫でしてしまうものかも……。

 懸念しつつも、あたしはやめるわけにはいかなかった。


 ナツが泣いているから。

 物わかりがいい子を演じ周りに気を遣って笑いながら、その実ひとりは寂しいと……、心の隅で身体を丸めてしくしく泣いているのがわかるから。

 ……昔の、ナツのように。


――しーし、しーし……。


 それを思うだけで、心がぎゅんぎゅんと締め付けられるように心苦しくなるんだ。


 同情に勝る愛情。

 憐憫以上に愛おしくなる。

 
 健気に、一途に懐いてくれるナツが好きだから。

 無防備に笑っているナツを見たら嬉しくて、心がほっこりするから。


 ……12年後は特に。



――ふふふ、しーちゃん。


 ひとり異質な存在と成り果てた"未来"世界の中で、変わらず"あたし"を求めてくれたのがナツだったから。

 12年の歳月を経て、たとえ姿が変わって変態王子になっても、変わらぬものがあることを教えてくれたのは、ナツだったから――。


 だったらあたしも、なにも変わっていないことをナツに訴えたい。

 
 ナツが辛い時に一緒にいれなくてごめんね。

 ナツが苦しい時にモモちゃんと楽しんでいてごめんね。


 だけど、あたしもモモちゃんもいつでも決してナツを忘れていたわけではなかった。

 モモちゃんから告白めいたことは言われたけれど、やはりモモちゃんにとってナツはあたし以上に大切な親友なのは変わりないし、あたしとしても大好きなナツのお友達だから警戒を解いて仲良くなったんだ。仲良くなりたいと思ったんだ。


 ナツがあってこその仲良しになったんだよ?

 ナツに無理させて笑わせるために、泣かせるために……仲良くなったわけではないんだ。


 大好きな人が大好きな人を、あたしもまた大好きになるために。

 そう思っているのはあたしだけではないからね――?

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