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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
 

「モモちゃん?」

「わかってる。わかってはいるけど……」


 モモちゃんは翳った顔を見せて、自嘲気に笑う。


「ここまで温度差があれば、結構……堪える」


 あたしが返した、ナツとお揃いのパーカー。今ナツのを着ているあたしとお揃いの、そのパーカーの胸のあたりの服地をぎゅっと掴んで。


「きっと……。ナツや波瑠さん相手だと、あんたは……。真っ赤になって嫌がるのだと思えば」


 向けられる切なげに潤んだ目が、ぎゅっと細められる。


「……彼らには、演技ができない素の自分をさらけ出せるものだと、あんた自身も自覚していると思えば」


 なにかを懇願しているように瞳が揺れる。


「あんたの余裕をなくすほど、彼らの存在は大きいのだと思えば」


 その苦しげな訴えが心に痛くて。


「あんたと彼らとは育んできた時間が違う、親密度が違う。それはわかっているのに……彼らに並ぶことすら出来ない、ちっぽけな俺が……悔しい……っ」


 ……痛くて。



「俺は……あんたのように、これは演技だと……割り切れない」


「………っ」


 なにも言えない。

 言葉が思いつかない。


 折角嫌味ではなく素直な心を見せてくれたモモちゃんなのに、それを手放しで喜べないあたしがいる。


「……俺はナツを裏切るつもりはない。だけど。だけどもし、幸せを夢見ることが許されるのなら……」


 モモちゃんのあの"殻"を打ち破りたいと願っていたはずなのに、これ以上は踏み込まないでと警戒するあたしもいる。


 モモちゃんは、


「俺のこと、演技じゃなく……」


 伸ばした手を、宙で止めた。


 惑うあたしに気づいたのだろうか。



 躊躇。逡巡。忍苦。


 そんな惨苦な表情を浮かべたモモちゃんは、その手を引いて乾いた笑い声を響かせ、



「……あはは。なんて顔してんだよ、冗談だろ?」


 翳ったままの顔で無理矢理に笑いを作って見せた。


「冗談なんだから……忘れてくれ」


 心臓をぎゅっと掴まれたような、痛々しい笑みを。


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